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【観劇記録】新宿梁山泊 『テント版 少女都市からの呼び声』 紫テント/花園神社 —夏、呼び声に誘われて—

花園神社にて行われるテント芝居は、唐組の紅テント、新宿梁山泊の紫テント、椿組のテントと、3つの劇団によって続けられている。

前回、唐十郎主宰の唐組による『透明人間』を紅テントにて観劇したが、今回は新宿梁山泊の『テント版 少女都市からの呼び声』を観劇すべく、新宿の花園神社へと足を運んだ。

2023年6月。

花園神社は、新宿駅や新宿三丁目駅からほど近い場所にある。熱気渦巻く人混みやその喧騒はすぐそこに蠢いている、はずなのだが、ここは静かでどこかひんやりとしている。

新宿梁山泊の垂れ幕が掲げられた紫テントは、唐組の紅テントに比べると明るい雰囲気がある。点呼の仕方やその声の出し方も一般的であった。

「最前列がおすすめです!」と劇団員が呼び掛けていた。桟敷席最前列の下手側に座る。
開演までは、団扇が必要な客に配っていたり、パンフレットの販売を行なっていた。また、最前列の客には、「何か飛んでくるかもしれないから」と、ガード用のビニールシートが渡された。唐組の『透明人間』で夥しい量の水が使われていたことを思い出すと納得である。

いざ、開演。
すぐ目の前に演者がおり、その唾が飛んできそうである。ビニールシートの役割はすぐに果たされる。
劇中、シャボン玉が使われるが、一輪車に乗った演者のシャボン液が目に飛んでくるという個人的なハプニングもあった。最前列に座るには、こういったこともギュッと距離の近いテント演劇の持ち味のひとつだと受け入れられるのであれば楽しめるだろう。

怪しい、いや、妖しげな病院。妖しげなドクター。妖しげなナース。すべてが奇妙な雰囲気。ベッドに横たわる男。そして、おどろおどろしい異物の発出。

今回、観劇していてまず「おや」と引っかかったのは、六平直政氏演じる田口の妹である、水嶋カンナ氏演じる雪子についてである。

“どこか儚く浮世離れしていて、妖艶でいて無垢”という人物像を思い描いていたのだが、意外にも、スナックのママのような肝が据わった根性がある、生々しいリアリティある存在感を持っていた。
筆者が勝手に想像していた雪子像とは異なったものの、“六平直政氏の田口”だからこそ、その水嶋カンナ氏の雪子は、“対になる”存在として説得力があったのかもしれない。
六平直政氏の田口は、爽やかとは違い油っぽさのある、どこか煮え切らぬ、でも心根は優しい男。スナックのママのような水嶋カンナ氏の雪子と、人としての色合いが似ているように感じた。

大鶴義丹氏演じる、田口の親友・有沢の、誠実なような、どこか冷徹なような、しかし育ちの良さのある姿が、田口と雪子の世界にまた色を添える。
佐藤水香氏演じる、有沢の婚約者・ビンコは強さと弱さを併せ持つ女性で、雪子とは相容れない空気感がある。

この作品で威厳を放つのが、風間杜夫氏演じる、連隊長だ。風間杜夫という役者の安定感。
話は変わるが、風間氏は、令和5年の春の叙勲 旭日小綬章を受章している。これについて、「若いころ人前に出るのが苦手だった僕にとって、与えられた役の中で自分を表現することが僕はここに生きていると伝える手だてで、僕にとって演劇というものが社会とつながっていく大きなパイプであることは今も変わりません」と語った。
その言葉通りで、彼は舞台上に生きており、命の炎のような熱い温度を肌に感じた。

強烈な異様さを放っていたのは、新宿梁山泊の主宰であり、演出を担当している金守珍氏演じる、フランケ醜態博士である。
善悪がないような奇妙さに恐ろしさを感じる。しかし、どこかキュートな狂気もある。ほわほわと妖精のようでいて瞳の奥に鋭く残忍さが光る。ナポリタンを貪る姿は忘れられない。

そしてメインのキャストの他に個人的に目を惹かれたのが、紅日毬子氏の看護婦である。芝居というよりその姿形、ビジュアルが妖しい世界観にマッチしており美しかった。

テント芝居の醍醐味ともいえるラスト、ビー玉の演出は圧巻であった。
ザーーッという大きな音、熱気、目の前の舞台に流れるガラス玉の大群、鼓動、なにが現実でなにがそうでないのか、わからなくなるというよりは、わかっているつもりでいたことが疑問になるような、感覚。田口の夢とも重なる。テントの中のこと、雪子のこと、ガラスの身体、指、城、塔、なにが現実であったか。いや、なぜそれを現実ではないと思ったのか。なぜそれを夢だと思ったのか。なにが本当に実在したことで、なにが夢の中のことであったのか。いや、夢の中のことがなぜ現実ではないと我々は思うのか。なにが境界線なのか。なぜ境界線だと思えるのか。


さて。
芝居の後のカーテンコール、六平直政氏が、金守珍氏について、「このテントでこれをやりながら、あの歌舞伎タワーの舞台の演出もやっているのだからすごい」と言っていた。
このテント芝居の『少女都市からの呼び声』が、大きく高く聳える東急歌舞伎町タワーの、最新の設備のある劇場で、スケールもかけられるであろうお金も規模が一気に変わる。一体どんな演出となり、どんな世界で、どんな表現となるのか。

六平直政氏が演じた田口を、安田章大氏が演じる。
水嶋カンナ氏が演じた雪子は、咲妃みゆ氏が。
金守珍氏演じたフランケ醜態博士は、三宅弘城氏が演じる。
金守珍氏、六平直政氏、風間杜夫氏も、役は変わるが出演する。

THEATER MILANO-Za版の『少女都市からの呼び声』もまた、楽しみである、と同時に、一体どんなものになるのかと期待という名の恐ろしさもある。

少女都市からの呼び声に誘われる夏の、開幕である。


■Information

新宿梁山泊 第74回公演『テント版 少女都市からの呼び声』

【新宿・花園神社境内特設紫テント】
2023年6月11日(日)〜26日(月)

料金
一般指定席
前売 5,000円  当日 5,500円
桟敷自由席
前売 3,500円  当日4,000円

【キャスト】
風間杜夫/金守珍/六平直政/大鶴義丹/水嶋カンナ/松田洋治/藤田佳昭/奥山ばらば/宮澤寿/山口拳生/柴野航輝/佐藤水香/若林美保/紅日毬子/染谷知里/諸治蘭/本間美彩/河西茉祐/山田のぞみ/芳田遥/荒澤守/松本薫

【脚本】
唐十郎
【演出】
金守珍

【公式HP】
http://www.s-ryozanpaku.com/


■ THEATER MILANO-Za版 Information

『少女都市からの呼び声』

【東京公演 THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)】
2023年7月9日(日)〜8月6日(日)

【大阪公演 東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール】
2023年8月15日(火)〜8月22日(火)

【料金】
全席指定席・税込
S席 12,000円  A席 9,500円

【キャスト】
安田章大、咲妃みゆ、三宅弘城、桑原裕子、小野ゆり子、細川岳
松田洋治、渡会久美子、藤田佳昭、出口稚子、板倉武志、米良まさひろ、
宮澤寿、柴野航輝、荒澤守、山﨑真太、紅日毬子、染谷知里、諸治蘭、本間美彩、河西茉祐 
金守珍、肥後克広、六平直政、風間杜夫

【脚本】
唐十郎
【演出】
金守珍

【企画・製作】
Bunkamura

【公式HP】
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_shojotoshi/

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