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紅茶とミルクのあんばい|茉記

朝起きて窓を開けて、夏真っ盛りな空が迎えてくれると、ふと思い出す風景がある。

母がキッチンで朝ごはんの支度を、テレビからはニュースが流れ、出勤前の父が新聞を読んでいる。
こどもの頃のいつもの朝の風景だ。
夏になると、母がガラスピッチャーに濃い目にいれた紅茶を氷で冷やしている姿が加わった。
おいしいアイスティーのいれかたはあるけれど、母はいつもこうしていた。
あさごはんのテーブルには、いつもミルクティーが並んだ。
暑くなってくると、それはアイスミルクティーに変わる。
両親がまだ若いころ、暑くなると氷をくだいてアイスティーをいそいそと作っていたのは父だったようだから、実は父のリクエストだったのかもしれない。

家族が食卓につくと、母が氷が入ったグラスに紅茶とミルクを注いでくれた。
スプーンで混ぜたときの、カランカランという涼しげな音も好きだった。

実家を出てからも、あさごはんはお気に入りのパン屋さんのパンとミルクティー。
おいしいパンが、起きるためのモチベーションになったりもした。
仕事の忙しさとともに、ミルクティーだけを飲んで出かける日が増え、さらにはミルクティーからストレートティーへと変わっていった。
いまでは、朝最初にいただく飲み物は白湯になった。

昨年の夏、お盆のために姉と姪が帰省していたときのこと。
3人で長谷寺へ行った帰りに、あまりの暑さに長谷に古くからあるカフェに入った。
紅茶はストレート派になったわたしが
めずらしくアイスミルクティーを飲みたくなった。
テーブルに運ばれてきたアイスミルクティーをひとくち飲む。

「飲んでみて」

わたしは何も伝えずに、姉と姪の前にグラスを置いた。
わたしたちは、にやっとしながらめくばせをした。
母がいれてくれてたアイスミルクティーの味だと、そろって感じたのだ。
それに、グラスまで同じだった。

「ばあば、参加してるね」と姪がわらった。

カフェのアイスミルクティーの茶葉の種類や、ミルクとの割合を想像するに…
これはもう、お盆シーズンあるあるかもしれない。

かつて慣れ親しんだ味や香りが、眠っていた記憶を呼び起こす。そして、思いがけないメッセージを運んでくることがある。

もうすぐ、母が旅立って5回めのお盆がやってくる。
アイスミルクティーもお供えしましょうか。

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