透明人間になりたい

私には家出癖がある。

幼い頃から嫌なことがあると、
夜に外をふらついて母を困らせた。

誰かが気づいてくれないと
家を出たかいもないので
母が探しにきてくれるのは
私の思惑通りだったけれど、
当時の母は相当困っただろう。

今、親になってみて、
夜に子供が自分の目に届かない場所を
ふらつくのがどれほど怖いか
わかるようになった。

経験が増えると、分かる気持ちが増える。

分かる気持ちが増えると、心に痛みが増える。
生きることは日々傷を増やすことだ。
傷だから癒えるけれど、その傷も治らないうちに
またすぐに次の傷がついてしまう。

たまに自分の傷に嫌気が差す。

傷がついた経緯も、傷がついた自分も耐えられない。
そういう時、私は「ひとり」になるために
どこかに行く。

ひとりになると、少し落ち着く。

かといって完璧に一人になるのは怖い。
人の気配は感じていたいのだ。

私は大勢の中で
「ひとり」を感じる時間が好きだ。

今は嫌なことがあっても
なかなか家を出れない。

家に赤ちゃんがいること。
家族の中で「母親」という
役割を背負うこと。

それは我が子のそばに常にいるか、
たとえ誰かに預けるにしても、
自分の居場所を常に明らかにし、
電話がつながる状態で
いなければならないことだ。

(いちおう断っておくけれど、
我が子といること自体は苦ではない。
けれど、子供といる時に考えるのは
「子供が何を考えているか」であり、
自分にベクトルが向くことはない。
自分と一緒に生きていくのに、
自分との打ち合わせ時間が取れないと、
結構しんどい。しんどくない人もいるのかもしれないけれど、
私は自分と1対1の時間が必要なタイプ)

腰が痛いからと自由にマッサージに行くことや、
気持ちを落ち着けたいからと
夜に本とノートとペンを持って、
カフェにふと出かけること、
「もしかして今、近くにいたりしない?」
と久しく会っていない友に連絡すること。

そういうことが生活から消えた。 

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