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【起業家向け】会社の株式比率は、何をもとに決めるべきか

最近、起業準備している方々から、株式比率についての相談が立て続けにありました。今までも多くの方がこの課題に直面していたので、これから起業される方の参考になればと思い、私の考えを少し記したいと思います。

但しこれは、一個人の解釈です。且つ起業家という立場から、若干ポジショントークになっているかもしれませんので、その前提でご覧いただければ幸いです。

スタートアップは、出資額よりもコミット率のほうが重要

資本政策はよく後戻りできないと言われますが、すでに色んな情報が出回る中でも、失敗して悔やんでいる方に出会します。

例えば、よくある誤りとしてあるのが、出資比率をそのまま株式比率にしてしまうパターンです。

(まだプロダクトも何もない)アセット0状態で創業する場合、出資比率をそのまま株式比率にするのは、ある意味一般的な考えなのかもしれません。しかしこれに対しては、加味しなければいけない重要な指標が抜けていると考えています。

それは、コミット率です。

そもそもこの考えに至ったのは、昔メンタリングをしてくださった、ある先輩起業家の言葉が影響しています。

その方からあるとき

「出資してくれた人と、その出資されたお金で実際に汗をかいて事業をつくる人(起業家)。どちらのほうが偉いと思いますか?」

という質問をされました。当時の私は、「出資した人」だと思っていましたが、後からそれは間違いだと感じました。

なぜかというと、スタートアップにとってお金は重要ですが、それよりも重要なことがあるからです。それは、当事者が覚悟をもってしぶとくやり切ることです。それですべてが決まると思っています。

そしてそこには、多大なる時間が費やされます。起業家は、お金以上に大切な、自分の「人生」という時間をBETします

しかも、多くのスタートアップは死にかけます。創業メンバーは、しばらく給料なしが当たり前の世界です。生活を切り詰めながら、他の選択肢を捨て。本来貰えていたはずの給与を捨て。リスクを負い。それでも人生を賭けてやるわけです。

もちろんお金を出資した人もリスクを負っていますが、果たして人生の貴重な時間を賭けている人よりも偉いのでしょうか。

質問にもどると、そのとき先輩起業家から教えていただいたのは

「汗をかいて事業をつくっている人のほうが偉い」

です。なので出資してもらうときは、その点を理解・共感してくださる出資者から投資を受けなさい。と教えていただきました。

これには、まさにそうだと思っています。そして今まで当社に出資してくだった方々は、すべてこの点を認識されています。起業家ファーストの考えを持たれた方々でした。

故に出資比率=株式比率という単純な計算式ではなく、そこに創業者のコミット率を加味して計算することが、理想だと考えます。

コミット率はバリエーションに加味される

ではそのコミット率の加味はどこに現れるかというと、バリエーションです

起業家が提示するバリエーションは、ある意味コミット率の割合です。未来その価値を創造するために、汗をかく価値がバリエーションに換算されています

例えば、創業期に1,000万円出資される投資家がいるとして、自分が100万円だったとしましょう。

合計で1,100万円の資本金として、その出資比率をそのまま株式比率にすると、自分の持分シェアは9%程度です。

お金だけをみれば、この比率は問題なくみえます。

一方、投資家は相談は受けるが事業には全くコミットしない。そして自分はフルコミットです。株式比率はそのままで良いでしょうか。

良くないです。自分が何のためにやっているのか謎です。今後全力で成功するかわからない事業を死ぬほど頑張って、数年から何十年の間、その利益の9割を投資家さんに渡すために仕事をするわけです。

モチベーションも何もないです。もはやリスクだけで、リスクの割にリターンがありません。

何がそんなにバランスが悪いのでしょうか。それは、コミット率が加味されていないからです。

同じように汗をかいていない。人生において一番後戻りができない「時間」というものを投資していないのに、お金の比率が大きいという理由だけで、比率が決まっている。だからバランスが悪いのです。

どれくらいが適正かというと、今すでにあるアセットやナレッジ、そして各々のコミット率の割合などで総合的に判断します(そしてそれはかなり難しいです)。

それらを元に株式比率を算出した際に、
・出資者 10%
・自分 90%
という判断が仮に出た場合。

そのときは、それに見合うバリエーションに設定し、出資者に提案します。

バリエーションを提示して、納得してくださるか。高すぎると言われるか。それは状況によりまちまちですが、まずは先述した観点から、起業家が納得のいくバリエーションで提示することが大切です。

今までの経験では、(弊社という)同じ会社でも、出資者によって評価が全く異なることを実感しました。Aさんから言われた評価の、5倍の金額をBさんから言われる。ということはざらにあります。

また、誰かがそのバリエーションを了承して出資すると、それが基準になり、後から出資する人たちは、そのバリエーションに文句を言う方はいません。

例えば絵画でも、誰かがある絵を10億円で買えば、その絵の市場価格は10億円になります。しかし10万円でしか売れなければ、市場価格は10万円です。ある意味似ている点があります。

スタートアップでも、誰かがそのバリエーションで認めれば、市場価値や基準はそこになります。そういった観点では、自社の価値に気づいてくれる人に如何に出会えるかが、スタートアップの初期ではとくに重要かもしれません。

共同創業者の株式比率

同じ理論になりますが、起業を共同創業で行う場合。創業者の中でもコミット率が違う場合は、持ち分を変更するべきです。

例えば、創業者Aは100%フルコミット、創業者Bは30%コミット、創業者Cは100%で、出資金額はそれぞれ100万円ずつの場合。単純に株式を33%ずつで割るのはいけません。

これは確実に言えますが、コミットが違うのに同じ株式比率を持っている人がいると、それに対してとても「不公平」を感じるようになります。

なぜ人生100%コミットしている自分と、週末しか働かないあの人が、会社が成功したときの分配が同じなんだ?というのが、心の奥底でくすぶり続けるのです。

株式は後戻りできません。一度手放したものを買い戻すという話をしても、買い戻しに応じなければ、会社法的にはどうやっても取り戻すことができません。

その課題が永遠に解消されないまま、起業家の心と脳のエネルギーが消耗され続けます。

企業のすべてのリソースは、事業を加速するために費やされるべきです。にも関わらず株式比率の問題により、起業家の意識が別のところに使われ、事業に集中できないのは論外です。

故に、必ず創業者間契約書を結ぶことをお勧めします

創業者間契約書にて、もしコミット比率が下がったり辞める場合は、簿価(会社創業時の株価)で買い戻すという条項をいれるのが一般的です。

コミットのない人が、会社の株主として残り続けるのは、リスクしかないです。もうコミットしていないのに会社の議決権をもっており、且つそれを別のよくわからない人に譲渡することすらできてしまいます(そうすると会社の経営権が大きく変わるリスクがあります)。

そのリスクがあると、解消しない限りは投資家は「投資をしない」という条件が出されたりもします(そしてそれを解消するのは困難を極めます)。

故にコミットが100%でなくなる場合は、ぜひ買取条項をつけておいてください。

とはいえ、仮に10年一緒にやってきたのに、11年目で辞めた場合に全部買い取りされるというのは、それはそれで乱暴な契約です。そのためにも、べスティング条項をいれるのが一般的です

1年稼働したら10%保有可能。2年可能したら20%保有可能。というものです。それにより、それまで人生を賭けた人に対して不義理にならない、平等性を担保することができます。

唯一無二の正解は存在しない

私の考えについて書きましたが、資本政策については、誰にも当てはまる正解は存在しません。

企業や投資家によって状況は様々ですし、個人の考えや価値観もそれぞれ異なります。なので起業家自身で後悔のない選択をしていただくのが、一番良いと感じています。

私自身も、今までの経験や出会った方から影響を受け、今の考えに至っています。

今後起業する方にとって、今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。皆さんの資本政策が、上手く進むことを心より願っております。


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