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【乙武洋匡の教育連載 vol.9】「教科書検定制度」の功罪を考える。

学校教育を語る上で欠かせない要素のひとつに「教科書」がある。もちろん教師による授業が教科書だけに縛られるわけでないが、それでも実際に展開されている授業の中心に教科書が存在していることは間違いない。

日本では、教科書に検定制度を設けている。1903年〜1945年の間は編集・発行などの権限を国家が占有する「国定教科書」制度が採られていたが、終戦とともに現在の検定制度へと転換した。現在、国定教科書を採用しているのは、タイ、マレーシア、ミャンマー、イラン、ロシア、トルコ、キューバ、リビア、北朝鮮など限られた国々だ。

では、1945年から続く「検定制度」とは何か。学校教育法には、こうある。

(小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校の小学部、特別支援学校の中学部、特別支援学校の高等部)においては、文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならない。

つまり、文科大臣の検定を受けた内容でなければ、教科書として採用されることはない、というのが現在の制度だ。

ところで、日本国憲法では検閲の禁止が謳われているが、教科書検定が憲法で禁止されているはずの検閲に当たるのではないかという議論が起こったことがある(家永教科書裁判)。終結まで、じつに32年を要した裁判の結論としては、「一般図書としての販売を禁止しているわけではない」との理由から、検定制度は検閲には当たらないという立て付けになっている。

では、日本がこうした検定制度を採用しているのは、どういった理由なのだろうか。文科省のサイトには、教科書検定の意義と必要性について書いたページがあるので、ここに抜粋しておく。

1.教科書検定の意義
 教科書に対する国の関与の在り方は、国によって様々であるが、教科書検定制度は、教科書の著作・編集を民間に委ねることにより、著作者の創意工夫に期待するとともに、検定を行うことにより、適切な教科書を確保することをねらいとして設けられているものである。
2.教科書検定の必要性
 小・中・高等学校の学校教育においては、国民の教育を受ける権利を実質的に保障するため、全国的な教育水準の維持向上、教育の機会均等の保障、適正な教育内容の維持、教育の中立性の確保などが要請されている。文部科学省においては、このような要請にこたえるため、小・中・高等学校等の教育課程の基準として学習指導要領を定めるとともに、教科の主たる教材として重要な役割を果たしている教科書について検定を実施している。

ちなみに、太字部分は私がつけた。ここで特に重要なのは、「教科書検定の必要性」について書かれた文章の太字部分だろう。具体的に「教育水準の維持向上」「教育の機会均等の保障」「適正な教育内容の維持」「教育の中立性の確保」という4つの観点から検定制度が必要であると述べている。

さて、ここからいよいよ本題へと入っていきたい。検定制度において必ずと言っていいほど語られるのは、やはり4点目に挙げられている「中立性」の部分だ。この記事でも、あらためてその点にクローズアップしてみようと思う。

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