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トランスジェンダー女性が五輪に「女性として」出場すること。

ニュージーランドの重量挙げで、ローレル・ハバード選手が東京オリンピックの女子87キロ超級の代表に選出された。

これだけ聞けば、なんてことはないニュースだが、ハバード選手はトランスジェンダー女性。現在は女性として生活を送っているが、2012年に性別適合手術を受けるまでは、「ギャビン・ハバード」として、つまり男性として生きていた。

1978年生まれの彼女は、「ギャビン時代」だった1998年に新しく設立された“男子”105キロ超級でニュージーランドのジュニア記録を樹立している。つまり、男性としても優秀なアスリートだったのだ。そんな彼女が「女性として」オリンピックに出場することが認められたことに対して、世間からは「不公平だ」「逆差別だ」と批判の声が吹き荒れている。

国際オリンピック委員会(IOC)は、2015年にトランスジェンダー選手の出場についてガイドラインを設けている。「男性ホルモンの一種であるテストステロン値が12カ月間にわたり一定以下なら、女子として競技することを認める」というものだった。ハバード選手はこの基準を満たしているために、今回の出場が認められることとなった。

しかし、テストステロンの値だけを基準とするだけでは公平性を担保できないという声もある。男性として第二次性徴期を過ごした人は、骨密度や筋肉量が女性より高くなるなど、生物学的に有利だという指摘もあるのだ。ハバード選手と同じ階級のアンナ・ヴァンベリンゲン選手(ベルギー)は、ハバード選手が東京五輪に出場することは、「悪い冗談のようなもの」とまで発言している。

ただし、繰り返しになるが、ハバード選手はIOCが示すガイドラインの基準をクリアしている。ゆえに彼女が東京オリンピックに出場することに異論はないし、彼女に対して批判が向けられるべきではないと思っている。だが、今後も同じ基準を運用していくべきなのかどうかについては、大いに議論の余地はあるだろう。

昨年10月、トランスジェンダー男性を主人公にした小説『ヒゲとナプキン』を上梓するなど、LGBTQのアライとして活動してきた私。20代の頃、7年間にわたってスポーツライターとして活動してきた私。そのどちらも「私」であるからこそ、この問題に向き合うことはとても苦しかった。それでも、やっぱり逃げることなく、真正面から向き合ってみようと思う。

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