【第3位】教師から「けしましょう」と書かれたノートを見て、子どもは何を思うだろうか。

2019年に反響が大きかった有料記事を、今回のみ無料公開してしまおうという年末特別企画。第3位は、友人の投稿に目を疑ったこちらの記事。公開時にこの記事をご購入くださったみなさん、どうかご容赦ください。

今日は、怒りモードだ。

まずは、こちらの写真をご覧いただきたい。

画像1


これは、私の友人がFacebookに投稿していた写真だ(本人許諾済)。

小学校に通う娘さんが、宿題として課された範囲を超えて取り組んだところ、教師から返却されてきたノートがこれだ。

「ここはまだです」
「けしましょう」

ふざけるな。

返却されたノートを見た娘さんの気持ちを考えると、大げさではなく、涙がこぼれそうになる。

なぜ、このような信じられない“暴言”が吐かれてしまったのか。私自身も小学校教師を務めていた経験から考えてみようと思う。

ここで、ちょこっとCMです。

2019年、私が最も力を入れて取り組んだ義足プロジェクトが本になりました。その名も『四肢奮迅』(講談社)。

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私が杉並区にある公立小学校で教師を務めていたのは、2007年〜2010年。ちょうど10年前ということになる。

当時は3年生、そして4年生を担任していたのだが、まあ大変だった。何が大変かというと、3年生になっても九九が暗唱できない子と、休み時間には司馬遼太郎の作品を愛読している子が、同じクラスに在籍しているのだ。

「いったい、これでどういう授業をしろと言うんだ……」

あまりに学力差が激しい子どもが同居しているという現実に、思わず途方に暮れてしまうという教師は、けっして私だけではないはずだ。

教師は、たった一人で30〜40人近い子どもを担任することになる。だから、子どもたちの学力は、できるだけ均質であるほうが授業がしやすい。たとえ学力に差があっても、進度は同じであることが望ましい。誰がどこまで進んだのかを個別に把握し、一人一人に見合った指導を進めることは、ベテラン教師であっても至難の技なのだ。

件の話に戻ろう。

だから、「ここはまだです」「けしましょう」などと書いてしまった教師の置かれていた状況が、まったく推測できないわけではない。きっと、毎日、大変な思いをしているのだと思う。いっぱい、いっぱいなのだと思う。

「個性を尊重する」ことが、いかに大事なのか。そんなことは120%理解している。それがわかっていても、一人一人に合わせたきめ細やかな指導など、いまの教育現場にはできる余裕がないのが現状なのだ。

だからと言って、超えてはいけないラインがある。

「ここはまだです」
「けしましょう」

教師からそう書かれた娘さんは、どう思っただろう。

二度と、与えられた以上の課題に取り組むことはなくなるだろう。
二度と、他者を上回る努力をしようとは考えなくなるだろう。
見事に、「均質化ニッポン」のできあがりだ。

均質化してくれればまだいいが、今後、下位グループの基礎学力は地滑り的に下がっていく可能性だってある。そうなれば、全体として見ればただ劣化していくだけのことだ。日本の未来は、暗い。

そもそも、宿題というものは何のために存在するのか。

その目的を考えたことがある教師が、何割くらいいるだろうか。もちろん、日常的な学習習慣を身につけるためという目的もあるだろうが、本来的には子どもたちの学力向上が狙いであるはずだ。

であるならば、全員に同じ宿題を課すということ自体がナンセンスで、一人一人に与えられるべき宿題は異なるものでなければ、その効果は生まれにくいということになる。

だが、あくまでこれは理想論だ。

現実は、もっと過酷だ。それがわかっていても、教師に「一人一人の進度や理解力に合わせた宿題を出す」という余裕などないのが現状なのだ。

教師から「けしましょう」などと書かれた子どもの気持ちを考えると、胸が苦しくなる。もっと他に言葉がなかったのだろうかと、その資質を疑いたくもなってしまう。だが、残念ながら、こうした教師は決して稀な存在ではない。

今回の“暴言”を、あくまで教師個人の資質という問題だけに落とし込んでしまうことは簡単だ。だが、それだけでは、おそらく悲しい思いをする子どもを減らすことはできない。わずか3年間ではあるが教育現場を経験した身からすると、「教育現場の働き方改革」を推し進めて、初めてこうした思いをする子どもたちを救うことができるのだと思っている。

そのために私たちができること。それはこのマガジンでも何度か書いてきたが、政治家に「もっと教育に予算を使え」と粘り強く声を上げ続けていくことだ。

保護者のみなさん、感想をください。教師のみなさん、感想をください。みなさんの声を重ね合わせていくことで、現場を改善していきましょう。

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