多くの人が誤解している「グローバル人材」の定義。
21世紀に突入してからだろうか。「グローバル人材」という呼称が登場し、そうした人材がもてはやされるようになった。もともとはビジネスの世界で登場した言葉なのだと思うが、いまでは教育界でもこの言葉をよく耳にするようになった。
もはや「グローバル人材」という言葉を聞いたことがない人はほとんどいないという状況になったように思うが、ではいったいどれほどの人が「グローバル人材」の意味を正確に理解できているだろうか。この観点から行くと、ずいぶん誤解している人が多くいるのではないかと思っている。
というのも、教育分野で「グローバル人材」という言葉が語られる際には、必ずと言っていいほど、英語や留学がセットになっているからだ。つまり、「グローバル人材=英語が話せる人」だと思い込んでいる人が、じつに多くいるのだ。
私は2013年から約3年間、東京都教育委員を務めていたが、そこでの議論も、「グローバル人材=英語が話せる人」という誤解に基づくものだった。いや、各教育委員の方々がそのような誤解をしていたとまでは言えないが、「グローバル人材の育成」というテーマで教育施策を議論するとき、事務局から上がってくるのは、ほとんどが英語教育に関するものだったのだ。
もちろん、「グローバル人材=世界で活躍できる人材」となるためには、その共通言語である英語をマスターすることがかなり重要な要件となってくることは間違いない。ならば、英語さえ話すことができれば、誰でもグローバル人材になれてしまうのだろうか。グローバル人材とは、TOEICのスコアが高い人材のことを指すのだろうか。
答えは、NOだ。「グローバル人材」とは、そう単純なものではなく、もう少し奥行きのある、立体的な人物像を指しているのだ。
では、ここから「グローバル人材」の定義を詳しく見ていこうと思う。政府は、2011〜2012年にかけて「グローバル人材育成推進会議」なるものを開催し、その「中間まとめ」において、グローバル人材を次の3つに定義している。
①語学力・コミュニケーション能力
②主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
③異文化に対する理解と、日本人としてのアイデンティティー
ちなみに、太字部分は私がつけた。他の要素は、グローバル人材でなくても仕事をしていく上で必要になってくるものだが、太字部分はまさにグローバル人材だからこそ求められる能力になってくると思ったからだ。
ひとつめの「語学力」は、もはや説明不要だろう。先ほども書いたように、国際舞台におけるコミュニケーションツールとして、英語をはじめとする語学力は欠かせないものとなっている。今後、テクノロジーの発展によってその重要性が低下してくる可能性がないとは言えないが、少なくとも現時点では、グローバル人材となるのに語学力は欠かせないスキルだと言える。
だからこそ、「グローバル人材の育成には英語教育が欠かせない」という考え方が誤りとは言えず、英語や留学とセットで語られることが多くなる理由もここにある。先述したように、問題は「英語さえできれば、それでOK」という考え方だ。
では、太字にした2箇所めを見ていこう。「異文化に対する理解と、日本人としてのアイデンティティー」。これは、少し解釈が難しいかもしれない。
この言葉をみなさんにより具体的に理解していただくために、世界有数の名門校と言われる英国ケンブリッジ大学を訪れた際のエピソードをご紹介しようと思う。
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