(書評)「わたしの山小屋日記(春・夏・秋・冬)動物たちとの森の暮らし」
「わたしの山小屋日記(春~冬)動物たちとの森の暮らし」今泉吉晴(論創社)
私の愛読するコウモリ本の1つに、シートン動物記のシートン作『コウモリの妖精アタラファ』がある。これは童話だが、シートン自身の綿密なコウモリ観察と愛情に基づいた作品だ。当時は小コウモリが超音波を使うことが余り知られていなかったのに、さすがシートンはコウモリの生態をよく理解して書いている。
その本の翻訳者が今泉氏で、ご自身も岩手と山梨に山小屋を建てて小動物の観察をされていた(元祖ナチュラリスト、ヘンリー・D・ソローの『森の生活』の翻訳者でもある)。
『わたしの山小屋日記』シリーズは、その山小屋で出あった野生動物たちの観察エッセイ。今泉氏ご自身、モグラやムササビを飼い(後で野生に戻す)、小動物の生態を詳しく観察されている。登場するのは、モグラ、ムササビ、モモンガ、リス、ヒメネズミ、アカネズミ、ヒミズ、コウモリ、モズ、メジロ等の哺乳類、鳥類、昆虫から植物まで。山小屋を訪れる動物たちや、山小屋周辺に出没する動物たちの、四季の暮らしの記録だ。
リスのクルミの割り方やクルミを運ぶ方法、モグラの土の堀り方、人間に育てられたムササビが野生に戻るまでのプロセス等、机上ではなく実際に観察体験した発見が沢山載っていて、読者もナチュラリスト気分を味わえる。
聞いた話だけれど、日本の動物学者の多くはインドア派らしい。研究室に対象動物を持ち込んで観察する人が多いらしい。でも今泉氏は、ご自分が森に住み込んで、現場で動物を観察している。私のような素人が批判めいたことを言うのは何だけれど、氏のやり方が本来の動物学じゃないかと思う。
環境に溶け込み、動物と共に生き、「事件は現場で起きている」ではないが、このシリーズを読んでいると、現場で、肌で感じなければ分からないことが沢山あるんだなあと痛感する。
著者は動物学者だが、この本は平易な文章で書かれ、専門用語は出てこない。小動物の可愛い写真も多く、1章が2~3ページで読みやすい。
著者のお人柄か、全体に優しく謙虚な語り口で、読んでいると穏やかな気持ちになる。自然から離れて、忙しい都市生活やデジタルライフを送る人には清涼剤のような本だ(とても素敵な本なのでぜひ文庫化してほしいなあ)
ナチュラリストや森の生活に憧れても、大抵の人はなかなか実践できないけれど、街に住んでいても、その気になれば動物観察はできる。著者は、都会でも色々な観察をしている。たとえばカラス、ハト、スズメの三者がどうやって同じ餌をgetするか。
ハトが大きなパンの切れ端をつつき、近くにスズメがいる。そこにカラスが突っ込んでくる。ハトは飛び去るが、スズメは意外にも冷静で、動かずに状況判断している。結局、カラスのくちばしは大きすぎてうまく餌を取れず、カラスが食い散らかした残りのパンくずをハトとスズメがgetする。
一番肝がすわって要領いいのはスズメ。
著者の観察によると、動物はヒマな時は全く何もしないというのも印象的。
人間はヒマを持て余してアレコレ無為に動くが、動物は動かずに体力を温存しているのだと思う。人間は、生活だけでなく行動にもいかに無駄が多いことか…。その結果、環境を汚して動物たちの生息域まで危うくしている。
私たちが曇りのない目とまっさらな心で動物に向き合えば、見習うことや教えられることは沢山ある。
著者のこの文章は心に響く。
「春」〜「冬」の全4巻です。
今泉氏の訳によるソローの不朽の名作『森の生活』文庫版
私は動物全般が好きで、野生動物保護活動をしている方々と交流したり、ネットの動物動画等もよく見ています。野生動物は、この棲みづらい地球で人間に生存を脅かされながらも懸命に生きている姿にこころ打たれます。
世界中で近年野鳥の数が激減しています。主な原因は生息環境の悪化や、農薬等の化学物質の害etc.. 人間の活動によるもの。北米ではこの50年間に30億羽!もの野鳥が消えたそうです。鳥もコウモリも、樹木や果物の受粉をしたり、害虫を食べてくれる、生態系に大事な存在です。
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