見出し画像

(書評) 「詩のすきなコウモリの話」&新著のお知らせ


画像3

★「詩のすきなコウモリの話」 ランダル・ジャレル作 (岩波書店)


コウモリを主役にしたフィクション(小説、童話、絵本等)は実は意外に多い。中にはブライアン・リーズの絵本のようにベストセラーになったものもある。

「コウモリ?」と先入観を持たずに読むと本当に面白くて楽しいものが多いので、まだ偏見のない幼少時にそういう本に親しめば、変に怖がったり嫌ったりせずに育つんじゃないかなあ(小さい子をお持ちのお母さん方、宜しく
お願いします)

この本は現在絶版、作者ランダル・ジャレルの日本での知名度は(たぶん)
低い。でも、コウモリ関係のフィクションの中で私が最も好きな本。
ピュアで慎ましくて愛らしい、小さな宝石のような1冊だ。

コウモリのフリーアイコン

主人公の小さいコウモリは詩を作り、それを鳥やリスたちに読み聞かせる。最初は他の動物のことを書いていたが、友達のリスに「なぜコウモリの詩を作らないの?」と言われ、自分たちのことを書いた詩を作る。
それを仲間に読み聞かせてあげようと思いながらも、冬眠が近づいて眠くてたまらなくなり…

ストーリー自体は特に事件があるわけではなく、小動物たちのささやかな
暮らしを描いている。訳の長田弘氏いわく、小さいコウモリはジャレルの
分身。その小さな詩人コウモリの作った詩が素敵なのだ(下記)


生まれたばかりのコウモリは、
はだかだ。目がみえない。弱々しい。
母親コウモリはしっぽで、ポケットをこしらえて、
あかんぼうコウモリをつかまえる。親指と足指と歯で
母親コウモリの長いやわらかな毛にしがみついて、
あかんぼうコウモリは、母親コウモリにぶらさがる。

夜は、母親コウモリは、あかんぼうコウモリといっしょに、
舞うように飛ぶ。輪をあがき、滑るように、宙返りしてーー
夜じゅう、幸福そうに、狩りをしながら、飛びまわる。

母親コウモリの、鋭い高い鳴き声は、
闇にひらめく、音のひびきの、レース編みのよう。
夜のなか、鳴き声は遠くまでゆき、遠くからもどってくる。
鳴き声がさわっていったものを、こだまがつたえる。
どこまで、鳴き声はとどいたか。鳴き声は、おおきかったか。
どの道を、鳴き声はとおったか。母親コウモリは、耳をすます。

母親コウモリは、耳をすまして、生きている。
ガを食べ、ユスリカをつかまえ、母親コウモリは
せいいっぱい飛びまわる。せいいっぱい飛びまわって、
池のうえをすれすれにかすめて、母親コウモリは
池の水を飲む。ただもう懸命にぶらさがって、
あかんぼうコウモリは、母親コウモリの乳を飲む。

月の光りをあび、星の光にぬれて、空を飛ぶ
母親コウモリとあかんぼうコウモリの、二つで一つの影が、
月のなかに浮かび、星々をよこ切って、
パタパタと飛んでゆく。夜じゅう、飛びめぐって、
夜明けになって、疲れきって、母親コウモリは
横木に、じぶんの場所に、パタパタともどってくる。

明るくまばゆい昼のあいだ、母親コウモリは眠る。
あかんぼうコウモリは眠っている。母親コウモリの
羽にすっぽりとつつまれて。

      (本書より一部。改行は私による)

画像6

          挿絵/ モーリス・センダック

  
作者のランダル・ジャレルは詩人・童話作家・批評家。優れた児童書の作者としても有名で、ニューベリー賞やコールデット賞を受賞しながら、50歳の若さで亡くなった。

この本の絵はジャレルと親しかった巨匠モーリス・センダック。ユニークな絵で有名な人だが、この本では繊細で可愛らしいタッチの絵を描いている。訳は詩人でジャレルを深く理解していた長田弘氏。これ以上ない組み合わせだ。

(前略)...コウモリのすがたがみえなくなったのは、人間の暮らしのなかに、自然がうしなわれるようになってからです。
人間だけの世界ではない。動物も植物もいっしょに住んでいるのだ。そのことをわすれていると、いつか春がきても鳥たちがうたわなくなる世界がくる。そう警告したのは、有名な『沈黙の春』という本を書いたレイチェル・カーソンでした。
『詩のすきなコウモリの話』は、「沈黙の春」をのぞまない小さなコウモリの話です」 (長田弘/あとがきより
)

今、世界的に虫が激減して、コウモリを含む動物への5G等の電磁波の悪影響も指摘されている。「夜じゅう、幸福そうに、狩りをしながら、飛びまわる」のも、場所によっては難しくなっているかもしれない。

ジャレルは実際に自然豊かな森の中に住み、コウモリや小動物を愛していたそうだ。この本を読む度に、私はちょっと優しい気持ちになる。

●現在絶版で中古本しかありません。こういう良書は復刊してほしい。


    ★新しい本のお知らせ★

私の新しい本のお知らせ。前著に続いてコウモリの本ですが、今度はフィクションです (前著はノンフィクション)。
内容は、傷ついて保護施設に収容されたコウモリが、そこを逃げ出して森に行き、瀕死のコウモリに出会い、そのコウモリを助けるために……友情と、
冒険の物語。 自分たちを助けてくれる人間もいれば、傷つける人間もいる現実や、環境汚染等の問題にも触れています。
でも深刻な内容ではないので、楽しんで読んで頂けると思います。

私は大人に読んで頂く前提で書いていて、子供向けに書いたわけではないんですが、年齢を限定せずにコウモリに興味のある方や動物が好きな方等に
読んで頂けたらいいなと思っています。

画像8
大人でもこんなに小さいんですよ

          
コウモリは昔から黙々と農作物につく害虫を食べ、人間を(経済的にも)救ってきました。北米では1920年代にマラリアが大流行した時も、原因の蚊を
食べて多くの人命を救っています。けれど夜に活動し、声も人間に聞こえない超音波なので、見たことのない人、よく知らない人も多く、「怖い」等と誤解されやすい動物です。

本当は賢くてシャイでとても愛らしい彼らの魅力を伝えたい。お手に取って頂けたら嬉しいです。

==========================================================

カナダのコウモリたち。みんな可愛い❤


嬉しいご厚意は、地球に暮らす小さな仲間たち(コウモリと野生動物)を守る目的の寄付に使わせていただきます(๑´ω`๑)♡