見出し画像

スポーツ選手・フリーランスが知っておきたい契約とは(第1回)

こんにちは。弁護士の紙尾浩道です。

一般的な民事事件・刑事事件全般のほか、スポーツ選手・団体の法務や、SNS利用のコンプライアンス講師、テニス練習会の主催なんかをしています。

今日は、スポーツ選手・フリーランスが知っておきたい契約とは(第1回)というお話をします。

「契約」の勘違い

あなたは、「契約とは?」と質問されたら、何と答えますか?

私は、色んなところでこの質問をしますが、良くある回答は

「契約書を作るような約束」

「金銭が絡む重要な合意」

という回答です。

うーん、どちらも惜しい!

まず1つ目の、「契約書」は、一部の類型では必須とされていますが、全ての合意に必要とされてるわけではありません。

もう少し正確には、合意のみで成立するのが原則で、法律が特に定めた時だけは、書面が必要なのです(民法522条2項)。

【以下、全て条文は民法のものです。】
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない

とはいえ、契約書は、第2回目で解説するとおり、紛争になってしまった場面で、切り札的な文書になります。

そこで、実際上は、多くの企業において、契約書を作成して、双方ハンコを押して保管するというプロセスを踏まないと怒られちゃいます。

なので、法律上は必要なくても、往々にして、証拠確保のために、「契約書を作りましょう」となるわけです。

次に2つ目の、「金銭が絡む」かどうか

実は、「金銭」のことを定めなくても、契約は成立します。

例えば、贈与契約では、カミオが「この六法(の所有権)をあげる」との意思を表示し、Aさんが、「その六法(の所有権)をくれるなら、ありがたくいただきます」との意思を表示すれば成立します。

ここには、「いくらで」という内容は「不要」です。

(贈与)
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

この例だと、いや「0円で」という意味で、金銭面を定めてるじゃないか!という批判もありそうです。

では、交換はどうでしょう?

(交換)
第五百八十六条 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。

ほらね、こちらは明確に金銭以外と記載しています。

以上のとおり、金銭のことを定めなくとも、契約は成立します。

契約とは

よくある勘違い事例はわかったから、正解を教えてくれー!という方。

お待たせしました。

契約とは、複数の者の合意によって、当事者間に法律上の権利義務を発生させることを指します。

・・・はにゃ?

大丈夫です、ここからがカミオの真髄なのでちゃんと説明します。

人間は、1つの文章に2〜3個、自分の知らない又は腹落ちしていない言葉が入ると、途端に難しく感じ、「理解しよう」という意欲も半減するみたいです。笑

ゆっくりいきましょう。

まず、「複数の当事者」これは日常の日本語のとおりです。

逆にいえば、「単独の当事者」つまり、1人では契約は出来ないということが言いたいだけです。

なんだぁー、そんなの当たり前じゃん、最初からそう言ってよぉ。って感じですね。

そうなると、「当事者間に」というのは、この登場人物のことを指していることがわかりますね。

ここも深く考えず次にいきましょう、難敵が来ます。

「法律上の権利義務」

来ました、コイツですね。

まず、「法律上の」の反対言葉は、「事実上の」とか「道義上の」という言葉です。

これだけでは、ピンと来ないので2つの違いをよくよく考えてみます。

例えば、「悪いことをしたらごめんなさいする」

これは、「事実上(道義上)の」義務です。

なぜなら、裁判所に、あいつが悪いことしたので、ごめんなさいさせて欲しいと訴えても、「うちは、法律上の権利義務の存否しか取り扱ってないので、申し訳ないけど、適式な訴えではないので、白黒付けずに、却下します」と言われます。

詳しい人は、あれ?謝罪広告を出すとかなかったっけ?となるかと。

実は、名誉毀損などの紛争において、一部、謝罪を命じることがあり得るのですが、本人に出てきてもらって「ごめんなさい」と言ってもらうことはできないとされています。

ごめんなさいの内容を外部に表示する手段が考えうる場合にのみ、「新聞に掲載する」とか「ネット上に掲出する」とかを強制することがあります。

さて、ここまで来るとようやく見えてきました。

「法律上の」権利義務とは、裁判所に訴えでれば、そのような権利や義務が「有る・無い」とか、「その内容はこれこれ」と判断してもらえる種類の権利義務を指します。

代表的な物としては、金銭支払義務、物の給付義務などです。

見方を変えると、世の中の紛争には、裁判所に訴えられるパターンと、そうではないパターンが存在するということです。
#今日一番大事なこと言った

まとめ

以上、契約とは、2人以上の人が、裁判所に訴えられるような類型の権利や義務について、合意することを指します。

合意が有りさえすれば良いので、契約書は必ずしも要りませんし、絶対に金銭絡みでなくても構いません。

文章読むのはめんどくさいあなたへ

実は、今日の話は、パデル協会の選手向けに講義していて、こちらからご覧いただけます。

我ながら、結構いい出来だと思っています。

動画ではあるものの、スライドなしでも耳だけで聴けるように喋っていますので、「ながら」で聴いてみてください。

今まで法律を勉強したことがある方は、1.5倍速まで速めても大丈夫。

15分くらいで聴き終われますから、皿洗いしながらどうぞ。

以上、スポーツ選手・フリーランスが知っておきたい契約とは(第1回)でした。

では、また!

記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。