コロナで合宿がキャンセルになってしまったら、合宿費は払わなければならない?(後編)
こんにちは、弁護士の紙尾です。
前回は、宿と学校の契約書がある場合のことを解説しました。
今回は、契約書なんてないよ!という場合です。むしろ、毎年決まった宿にお願いしている場合などは、この方が多いのではないかと思います。合宿に行った際に、顧問の先生や、代表者が、「来年もまたよろしくお願いします。日時は、令和3年8月17日から8月23日で」などとやっているのではないでしょうか。
原則として、契約については口頭で行ったとしても有効に成立しますから、上記のように口頭で来年の実施を約束したとしても、宿泊契約が成立します。
【宿側】令和3年8月17日から8月23日の間、宿泊サービスを提供する義務を負い、その代わり、宿泊料金を請求する権利を得る
【宿泊者側】令和3年8月17日から8月23日の間、宿泊サービスを受ける権利を得て、その代わり、宿泊料金を支払う義務を負う
ということになります。
宿泊者側である学校側が、学校側の都合でキャンセルする場合、宿側は、宿泊サービスを提供しようと思えば提供できる状態にあって、自分の義務は果たせます。
したがって、このような場合には、(宿側が任意にキャンセルに応じて、無償で許してくれた場合は除いて)、宿泊代金を支払わなければなりません。
問題は、「コロナウイルス」が「学校側の都合」と言えるのかですが、この文章の執筆時点では、次のように解釈されています。
コロナウイルスの拡大が懸念されるため、学校側が自主的に合宿を中止する場合などは、現在のところ、残念ながら、「学校側の都合」と解釈されることが多いですから、支払を免れることはできません。
他方、コロナウイルス感染拡大防止の観点で、宿の側が自主的に休業を選択しており、当該時期の宿泊受け入れを辞めてしまった場合については、宿側の都合と解釈されると思われます。
上記2つの場合の中間で、たとえば、東京都の学校が、山梨県に合宿に行く際、学校側も合宿を行う意思で、山梨県の宿も宿泊サービスを提供しようとしていたのに、東京都が都外への移動を禁じたとか、山梨県が都内からの移動を禁じたなどといった場合は、「どちらのせいでもない」ということになります。
このような場合には、危険負担(民法536条)の規定が適用されます。
内容を抽象的に書くと、「ある債務について当事者双方の帰責事由なく履行が不可能になった場合、反対給付の債務者は、反対給付の履行を拒むことができる(つまり債務を履行しなくてよい)」
難しいので簡単に言えば、宿泊サービスの提供が履行不能になってしまった場合、支払義務はなくなるということです。
ちなみに、金銭債務は、誰かからお金を借りれば履行できることから、「履行不能」という概念が無いため、上記と反対向きに危険負担を考えるといことは通常ありません。
以上、合宿と法律でした!
記事をお読みいただきありがとうございます。弁護士は縁遠い存在と思われないよう、今後も地道に活動をしようと思いますので、ご支援よろしくお願いします。