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わたしの好きな詩 ──心に静かに染み渡ります [第29回]


錨 礒部晴樹・画

船長がラム酒を飲んでいる。
飲みながらなにか唄っている。
唄は嗄れてゆっくり滑車が帆索に回るやうに哀しい
鴎が羽根音をひそめて艫の薄闇を囁いて行った
軈て、河口に月が昇るのだらう。

船長の胸も赤いラム酒の満潮になった。
その流れの底に
今宵も入墨の錨が青くゆらいでいる。

丸山 薫


*錨=いかり
嗄れて=かすれて、しゃがれて
帆索=はんさく=ハリヤード=-帆をコントロールするロープ
回るやうに=回るように
鴎=かもめ
艫の薄闇を囁いて=とも(船首)のうすやみをささやいて
軈て=やがて
昇るのだらう=昇るのだろう
満潮=まんちょう=みちしお
今宵も入墨の錨=こよいもいれずみのいかり

見慣れない漢字や、古風な言葉のいいまわし。
古い海洋小説か映画のひとこまのようなワンシーンです。
港町の、場末の、潮の匂いのする、セピア色の詩です。


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