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働き方の見直しを正論でアプローチしても中小企業の経営者には響かない理由

日々、ネットをはじめとして働き方関連の情報が溢れていますが、それにも関わらず中小企業の経営者がなかなか重い腰を上げない理由はなぜだか考えてみたことはありますか?

反論しずらい正論

なぜ働き方改革に取り組み、新しい働き方を模索しないといけないのかというお題に対して理由の多くは「将来は人口が減少し、労働力不足が懸念されるから」というものがほとんどです。他には「生産性を高めてワークライフバランスを充実させましょう」とか、「多様な人材を活用しましょう」などでしょうか。確かにそうですし、できることならその対策を今から少しづつでも取っておいた方がいいと思います。

でも、中小企業ではその理想といえる正論はなかなか腹に落ちない現実があります。来月、半年後に人手不足が確実に発生し、事業に支障が出るなどの切迫した事情がない限り、いずれそうなるという認識のために手間暇、時間、お金を使って今すぐ取り組む緊急性を感じないものです。かけた費用に対してどんな効果があるのかもよくわからない、それよりもやらないといけない目先のことが山ほどある、だから今は優先度は低い。それが世の中の99%を占める中小企業の多くの本音だと思います。

法律で定められたことを最低限やるのが精いっぱい

働き方改革関連法のうち、長時間労働の是正や有休消化などに対応するだけでも大変な労力がかかったはずです。それすらも適正に運用できているか自信がないかもしれません。そのうえコロナ渦の対策としてテレワークを導入した方がいい、DX化だ、生産性を向上させるべきと言われてすぐ対応できるものでしょうか。体力のある大企業と違って、中小企業は生き残りを賭けて毎日が必死です。資金も人材も潤沢な大企業の事例を見ても、それは他所のやってることで自社とは関係のないこととして映っているかもしれません。そもそも、取り組み方もわからず、資金も人材もいない場合としたらなおさらです。

では働き方を見直す必要性を感じるのはどんな理由か?

コロナ渦で社員の意識が大きく変わったことでしょう。コロナを契機に、社員はこれまで以上に厳しい目で会社を見るようになりました。

・コロナ対策に不満。どうしてウチはテレワークをやらないのか?アナログな業務対応のために出社せざるを得なくて、満員電車に乗って感染したらどう責任取ってくれるのか?

・お客さんが対面を嫌がっているのにまだ対面訪問にこだわるの?それって思考停止してるだけじゃないの?

・コロナ渦、アフターコロナで会社はどう持ちこたえるつもりなのか?精神論ばかりで明確なビジョンも計画もみえなくて自分の将来が不安

・業績が低迷しても経営者は痛みを分かち合わず、社員の賞与をカットするばかりで、最後はリストラするのでしょう?自分の家族の生活はどうなるの?会社が大変なのはわかるけど、自分たちにも生活があるのだからしっかり経営をしてほしい

・頑張っても報われない努力ならしたくない、やりがい搾取みたいなことはされたくない

・ネットで見る他の会社はあんなこと、こんなことに取り組んでいるのにウチの会社はなんで何にもしてくれないのか?

経営者の立場からすれば、無責任に言いたいことを言う社員はむしろ鬱陶しい存在かもしれませんし、わかっているけどそんな余力は今はないと申し訳なく感じる場合もあるでしょう。でも、自分で選んで採用した大事な社員の声ですから無視する訳にもいかない。経営者は悩みごとばかりですね。

私も中小企業で長らく経営幹部というものをしてきましたし、今は小さな会社でも経営者なのでどちらの言い分もよく理解できます。もちろん、社員の意見の全てを取り入れることは簡単にできないですし、本業を疎かにして働き方の見直しばかりしていたら本末転倒です。

ただ、結局、企業は人材が全てとも言えるので、今はできなくても会社としてどう取り組んでいくかを社員に対して示せないと社員の気持ちはどんどん離れていき、経営者が本業でどんなに旗を振っても社員が面従腹背で真剣にならない限り成果も出ませんし、業績が良くなったら賞与も弾むといってもそんなカラ手形を信じる社員もいません。会社に対する忠誠心や帰属感のような気持ちが薄らいでいけばせっかく能力が高くてもその能力を発揮することもなく、退職が増え、新規の採用をしても思うような人材を採用できるかどうかもわかりません。転職市場における求職者の検索キーワード上位がテレワークや副業が可というのもトレンドを示した一例だと思います。

社員のこの気持ちの動きに鈍感な企業、経営者はいずれ人材確保で今以上に苦労することになるかもしれません。様々な事情を抱えた多様な人材を活用するなどもっとできません。どんなに優れたビジネスアイデアがあり、立派な事業計画があってもそれを実行する人材がいなければ絵に描いた餅になり、早晩、事業自体が行き詰ってしまう可能性があります。

人口減少、労働力不足という将来図を見せられて何も感じなくても、新型コロナウイルスがもたらした様々な変化に対する会社の対応を社員が見て、意識や価値観、帰属感が大きく変化したことを感じ取らないと企業経営は立ち行かなくなるかもしれないという危機感が中小企業の経営者が働き方を見直す理由のひとつになると思います。