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終活をしてみましょうという話になると、いろんな方からいろんなことを勧められます。遺言書を書きましょう、老後資金を増やしましょう、葬儀やお墓の準備をしましょう等々、多岐にわたります。

備えを全く何もしないよりも、した方がいいに違いありません。けれど、備えにも大概はお金がかかることばかりですし、手続自体もよくわからない場合もあるでしょう。

今回は備えの代表格とも言える遺言書についてお伝えしていきます。

■そもそも遺言書はどんな時に書くもの?

簡単にいうと、遺言書は法律で定まっている相続人の相続分とは異なる内容で相続財産を分けて欲しい場合に書いた方がいいものです。

例えば、子どもが3人いて、家業を継いでくれた長男には財産を多く残したい、放蕩息子の二男には何もあげたくない、末っ子の長女にはそれなりにあげたい、こんな状況の時に書いておいた方がいいものという理解でとりあえず十分です。

それ以外では、子どものいない夫婦や前妻との間に子どもがいてその子には財産を残す考えがない場合、行方不明の子どもがいる場合など事情に応じて遺言書を作っておいた方がいい場合などがあります。

■遺言書は公正証書遺言でないといけないの?

遺言書を作ろうかと専門家に相談するとします。ほぼ100%、公証役場というところで公正証書遺言というのを作った方がいいと言われます。

終活について多少なり学んだ方なら、最近は法務局という不動産の名義変更の登録管理機関で自筆の遺言書を預かってくれる制度ができて、費用も安いと聞いたことがあるかもしれません。

専門家の先生から公正証書遺言と自筆証書遺言の違いやメリット、デメリットについて説明を受けてみると、なるほど公正証書遺言というものの方が費用は高いが安心や確実性が高いようだと理解します。

・公正証書遺言の作成費用 実費含めて概ね15万円程度(※財産による)
・自筆証書遺言の作成費用 0円(※法務局保管の場合、実費数千円)

結論としては、遺言書としての効果については公正証書遺言と自筆証書遺言どちらも同じです。

費用や手間の比較、ご自身の専門的知識の有無、遺言書の確実性など総合的に判断してどちらの方式によるかをお考え頂いたら良いと思います。

※本稿では公正証書遺言と自筆証書遺言の違いなどについて深くは触れません。WEBサイトなどでいくらでも検索できるので気になる方は調べてみてください。

■遺言書は1回作ればそれでいい?

ところで、遺言書は1回作ればそれで全てOKでしょうか。

あまりぱっとしない長男には財産を多めに残して、妹である娘の方は裕福な家庭に嫁いだから少なめにしておこう。例えばそんな内容の遺言書を公正証書遺言で作ったとします。

数年後に、長男から何かしらひどい仕打ちを受けたり、逆に娘がかいがいしく接してくれたりしてやっぱり財産は娘の方に多く残してあげたいなと考え直したとします。

こうした場合にはどうするかというと、もう一度遺言書を作り直した方がいいことになります。

例として、遺言書を書いたご本人の心変わりを示しましたが、生きていればもちろん財産が減ったり、増えたりする場合もあります。

わかりやすい事例で書くと、当初は自宅を長男に相続させると遺言書に書いておきましたが、老後生活を送るうえで住み替えた方が日々の生活が楽だと考え、それまで住んでいた自宅を処分して、バリアフリーや買い物に便利な住宅に移り住んだとします。

当初の遺言書に書いていた長男に渡そうとしていた対象財産がなくなる訳ですから、遺言書をそのままにしておけばその部分については無効となります。

結果、相続が発生した時に長男が不満に感じたり、遺言書に記載されていない新たな財産に関しては、通常通りに相続人同士で話し合いをしないといけません。

こうなってしまうと、高い費用をかけて遺言書を作った意味があったのかという話になる可能性もあります。

人にもよるかもしれませんが、多くの専門家の先生は遺言書の内容を変えたくなったらまた相談しに来てくださいとは言いません。

また、いま言ったように、財産が増えたり、減ったりした場合の遺言書の効果についての説明を全くしない人もいます。

人間ですから気持ちや感情も、持っている財産の内容も変わることは普通に起こり得ます。

遺言書を作ろうと考えたら、本来はその後のメンテナンスについても考えておく必要があります。

ちなみに、当初の遺言書を公正証書遺言で作ったからといって、内容を変える場合には自筆証書遺言でも何ら問題はありません。

余談ですが、生命保険でも同じようなことが言えます。若い頃に加入した保険の保障内容は歳を取ったいまでは無用なものになり、逆にこれから必要となりそうな保障が薄いなどということは普通にありますので、子どもが自立した後など生活の変化に応じて生命保険の保障内容を見直すこともお勧めします。

遺言書の話に戻りますが、遺言書の作成に関して厳格な様式というルールがあります。自筆証書は必ず文字通り自筆による手書きであり、書き損じた場合の訂正方法なども細かいルールがあります。また、財産を特定する記載方法にも注意を払わないといけません。

せっかく一大決心をして遺言書を書いてみたのに法律的には全て無効となってしまったらその努力も報われません。

そうした細かなルールもたくさんあるので、普通の人によっては難しい側面があるうえに、作ること自体が一大決心が必要で、さらに専門家に相談に行くというのも心理的ハードルが高くなるということで敬遠されがちなのが遺言書なのです。

また、専門家によっては、ただ様式に適合した遺言書を作成することだけが目的となっていて、相続税負担という現実や相続人間でトラブルが発生するだろうという想像力に欠けた対応をする方もいるので、相談する専門家選びも慎重にしないといけません。(※自称相続専門家もいるので要注意です)

■遺言書がなくてもいいようにするのが理想

相続を考えたら必ず遺言書を作るべしということでは決してありません。遺言書は対策が必要な人が取る手段のひとつでしかないです。

相続人となる子どもたちが仲良く、お互いの事情を理解して、残された財産の分配についてもめなければそれが理想です。

生前に、自分が亡くなった後にはこんなように分けて欲しいと希望を伝えるなり、きょうだい仲良く過ごして欲しいと話しておいてそれが実行されるのであればあまりもめることもありません。

逆に、相続でもめるのは相続人自身が経済的余裕がない、きょうだい仲がもともと悪い、相続の当事者でない子どもの配偶者が金にがめついといったことが多い傾向にあります。

また、きょうだい仲が良くても、相続の対象が自宅不動産など分けずらい財産の場合などにはひと悶着ある可能性もあります。お金が絡むと人が変わる場合もあるのが現実です。

いろんな場合を想定して、やっぱり遺言書があった方がいいのかなと思ったらできれば専門家に相談した方がいいと個人的には思います。

具体的にどうしたいという明確な考えがなくても、ご自身の家族関係や財産の内容によって心配ごとが起きる可能性があるのかないのかという軽いカウンセリングを受けるだけでもいいと思います。

自分一人で考えていると多分前に進まないでしょうし、今どきの専門家は皆さん無料相談で受付けてくれますので気楽に利用してみたらよいと思います。

■まとめ

・遺言書は法律の定める相続分とは異なる内容で相続させたい時に作るもの
・公正証書遺言と自筆証書遺言では法律的な効果に差異はない
・遺言書は1回作れば終わりとは限らない
・遺言書がなくても円満に済むのは家族関係が良い場合

遺言書というテーマを扱うとどうしても法律や制度の解説であったり、トラブル事例に言及することが多くなり、見た瞬間に拒絶反応という方も少なくありません。

本稿では普段あまり遺言書について考えたことがない方やほとんど知らないという方を対象に書いた内容です。難しいことをだらだら長く書くこと自体もできますが、「ちょっと気になってた」という方に参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。