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【連載】D2C Design Studio Talk vol.8 – MVS(MinimumViable Service)–

みなさん、こんにちは。博報堂ブランド・イノベーションデザインの岡安穂香です。

Vol.7では、サービスやD2Cブランド開発において重要な「サービス・ドミナント・ロジック」や「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」という考え方についてお話しました。


今回は、新規事業開発において必要な「プロトタイピング」の考え方、そしてD2Cブランド開発に有効な「MVS ( Minimum Viable Service )」についてお話をさせていただきます。

D2Cブランド開発では、制作プロセスにおいても顧客と直接的なコミュニケーションをとりながら共に作り上げていくことが重要です。プロトタイピングは事業初期段階から顧客とのコミュニケーションツールになり、リアルなフィードバックを集め改善していくための有効な手段ですので、是非参考にしてみてください。

目次
1. プロトタイピングとは
2. D2C事業に最適なプロトタイピングMVS ( Minimum Viable Service ) とは
3. 具体的なプロトタイピングの方法の紹介 

プロトタイピングとは 

プロトタイピングとは、描いたサービスや事業アイデアによって、ターゲットがどのような行動をするのかを掘り下げ、評価し、伝えるための活動です。プロトタイプは、そのために作られたものを指します。

具体的には、プロダクトの模型をダンボールで作成したり、紙芝居のようにサービスのストーリーをイラストとテキストで描いたり、プロトタイプの種類は様々です。

図1

ですが共通している点は、誰でも手に入りやすく、扱いやすい素材・プラットフォームであることです。なぜなら、プロトタイピングは、アイデアの重要な価値を探索・検証できる最低限のものを、早く、安く作れることが最重要だからです。

そして、新規事業開発において最も避けるべきことは、コストをかけて顧客に必要とされないものを作ることです。プロトタイピングをすることで、事業初期段階から活用することで、多くの人にアイデアに触れてフィードバックをもらい、質の高い小さな失敗を積み重ねることで後の大きな失敗を避けることができます

プロトタイピングのプロセスとポイント

プロトタイピングのプロセスでは、「構築」「計測」「学習」の3つのステップを繰り返します。ですが、プロトタイプを作成することが目的になってはなりません。プロトタイプを作る前に準備することと振り返りが非常に重要です。ここでは、具体的な手順を説明します。

図2


「構築」
プロトタイピングは、アイデアを掘り下げ、評価し、伝えるためのものなのでリサーチとも言えます。ですので、プロトタイプを作る前に、なぜプロトタイピングをし、何を達成したいかを明らかにする必要があります。なんらかのインサイトを得る目的で作るのでなければ、プロトタイプとは言えません。そして、プロトタイピングは改善することが前提なので、目的に対し過剰にコストをかけることはリスクです。設定した目的を達成するための最小限のプロトタイプを作成しましょう。プロトタイプにおいては「壊そう」と試みる気持ちがとても大事です。

「計測」
作成したプロトタイプを用いて、ターゲットやステークホルダーに使用してもらいます。ユーザーの様子を観察し、対象者から検証目的に沿ったフィードバックを得ることで、アイデアを掘り下げ、評価し、共通認識を作ります。次のステップに向けて、写真・動画・現物・生声などなるべく記録に残すことがここのステップでは重要です。

「学習」
プロトタイプの価値は、作ったものよりも、そこから得た教訓に価値があります。ですので、フィードバックとデータを集め、検証項目に対する結果から改善点を得られるよう設計しましょう。このように「構築」「計測」「学習」のプロセスを繰り返すことで、例えば半年かかるような作業を1、2ヶ月のプロトタイピングプロセスを取り入れることで、スピーディにブラッシュアップしていくことができます。

プロトタイピングの活用シーン

事業開発プロセスにおいて、プロトタイプが活躍する場面はおおきく3つあります。

図3

1. 発散フェーズ
プロトタイプは、一般的に検証ツールとして捉えられることが多いですが、アイデアの探索フェーズでも、手を使って発想するアイディエーションツールとして活用できます。プロトタイプを作ることで、アイデアの解像度を上げ新たな課題や機会を発見することができます。

2. 構想フェーズ
プロトタイプは、言葉を必要とすることなくあらゆる情報をスピーディに伝えることができます。チームまたはステークホルダーに対する誤解を減らし、本質的な課題をディスカッションするためのきっかけになります。プロトタイプという共通言語を持つことで、積極的な参加を促すことができるのでチーム形成においても有効です。

3. 検証フェーズ
アイデアを考えた人は、成功させたいという気持ちが強くなるため、確証バイアスに陥りやすいです。アイデアをプロトタイプ化し実際の顧客やステークホルダーにそれらをテストしてもらうことで個人的なバイアスを取り除き客観的な評価を得ることができます。プロトタイピングにおいて、仮定や個人的な意見ではなく現実に接地していることがとても重要です。

このように、発散・構想・検証といった各フェーズで「構築」「計測」「学習」のプロセスを回していきます。

プロトタイピングの落とし穴

プロトタイピングのプロセスでお伝えしたように、各フェーズの検証項目に合わせたプロトタイピングを行うことが重要です。検証項目として、どのような価値を提供するか、どうやって実現させるか、どんなビジュアル・世界観にするかなどが挙げられます。

その中でも、提供価値は、フィジビリティ・ビジュアルイメージの指針になってくるので、優先的に検証するべきです。逆に提供価値が定まってない段階で、フィジビリティ・ビジュアルイメージのプロトタイプ作成に時間をかけるのはリスクが大きいので注意が必要です。

とくにD2Cブランド開発においては、つながり続けたいと思ってもらえる提供価値が重要になります。ですので、ターゲットのニーズの強さを検証するだけでなく、ターゲットの文脈に沿って提供価値を固めることが優先されます。そこで、D2Cのサービス開発において重要なプロトタイピングの考え方を次の章でお伝えしていきます。

D2Cのサービス開発に有効なプロトタイピングMVS ( Minimum Viable Service )とは

私たちは、D2Cのサービス開発に有効なプロトタイピングを「Minimum Viable Service」(博報堂ブランド・イノベーションデザインによる造語)と定義しました。日本語で、顧客に価値提供できる最小限の「サービス」です。シリコンバレーの起業家Steve Blank氏 が提唱した「Minimum Viable Product」を「プロダクト」のプロトタイピングと定義した時、「サービス」のプロトタイピングとはどのように違うのか、ポイントごとに説明致します。

図4

部分最適ではなく、全体最適で考える
MVPは、単一のシステムや商品、モノなどを対象とし、それらのニーズやユーザビリティを高めることを目的として作られます。具体的には、ウェブサイトであったりアプリ、製品であったり何らかのソフトウェアやプロダクトが対象になることがほとんどです。

一方、MVSは対象が複数です。例えば、フォロワーのSNS投稿をきっかけにブランドのサイトにアクセスし、実際に店舗に訪れて、店員と話しながら、商品を購入する。といった顧客の一連の動きの中で接する複数にまたがるエクスペリエンスを高めることを目的としています。ウェブサイト、店舗といったプロダクトだけでなく、ブランドファンのSNS投稿を促す仕組みやリアル店舗での接客など、人に関するものも対象となることが大きな違いです。

このように、 MVSでは商品を「磨き上げる」ことよりも「どのように提供するか」ということにプライオリティを置いています。つい、プロダクト開発から入ってしまいがちですが、まずはあらゆるタッチポイントにまたがる体験設計へと視座をあげて、全体最適でプロダクトも考えることが重要だと考えます。

具体的なMVSのプロトタイピング方法の紹介

前述の通り、MVPとMVSでは、プロトタイプの対象数や種類が異なります。ですので、プロトタイプの手段も検証したい目的に合わせた使い分けが必要です。そこで、サービスのプロトタイピングに有効な手法をいくつかご紹介します。

MVSのプロトタイプ手法

1. デスクトップウォークスルー
テーブルの上で、ポストイットやトークンを使って作ったサービスの現場の簡単な模型を使い、サービス全体を俯瞰しながら一連の顧客体験をシミュレーションする手法。手を動かしながらサービス全体を俯瞰することで、言葉だけで議論する場合よりも、実際にサービスが行われる状況を想像しやすくなり議論が活発になってよいアイデアが生まれやすくなります。

2. ビデオプロトタイピング
ユーザーがサービスを利用する一連の体験を映像としてビジュアル化する手法。ロールプレイングしたものを録画したり、イラストを用いて、サービス概要をアニメーションで表現したりなど様々です。作成した動画をセールスに活用することで受容性の検証ができます。

3. オズの魔法使い(※)
実際に体験したひとのフィードバックが欲しい時に、在庫を持たずに、発注が来次第創業者が発送するなど本格的な仕組みを作る前に、手動でできることは手動でやる手法。LPだけ作成し実施に注文が来た際は、人力で商品を発送しサービスを擬似的に再現することでリアルなサービス体験が提供できます。
※映画「オズの魔法使い」で魔法使いとされた人物が実際は中年のおじさんだったことから名付けられた

4. ライブプロトタイピング
まだ粗い段階のコンセプトを、消費者が日常生活で遭遇する状況に送り出す手法。想定している業界の棚にプロトタイプ段階のものを置くことで、競合する選択肢がある中、市場で本物らしくみられているかなど消費者の行動を観察します。

5. コミュニティプロトタイピング
共創型のサービス開発がしたい時、将来的な顧客を抱えるコミュニティーに創業者自ら飛び込み、サービスと熱狂的なユーザーを同時に行っていく手法。熱狂的なファンになりうるコミュニティに絞って展開することで、製品のブラッシュアップとともに、ブランドを共に育てていく仲間を作ります。

MVSでは、全体最適で提供価値を検証することが重要です。初期段階でプロダクトのプロトタイプを個別に作り上げるとコストがかかってしまうので、MVSのプロトタイプを活用し、全体像を把握してから製品開発に移ることをお勧めします。このように、制作プロセスにおいても、プロトタイプを通じて顧客と直接的なコミュニケーションをとりながら共に作り上げていくマインドが大切です。ぜひ実践してみてください。

ライター紹介
岡安穂香 | 法政大学デザイン工学部システムデザイン学科にてプロダクトデザインを専攻。 2019年博報堂に入社し、博報堂ブランド・イノベーションデザインに所属。 イノベーションプラナーとして、ブランドのアクティベーション施策や新規事業開発支援、D2Cブランドのプロダクトデザインなどを担当。#D2C #D2Cブランド #D2CDesignStudio #博報堂 #ブランドイノベーションデザイン





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