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オンユアリップス

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自作のまとめです。かなり古いものもあります。
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#現代詩

鯨骨群集

雨がちな故郷に
老親を置き去ってきた

まだ萎えてはいない腕をさすって
(安息角だ、と思う)
そこは蚕の翅のように柔い

身丈からずいぶん高いところに向日葵を見て
まだ夏になんてなってはいけないでしょう
迷い込んだ先、
いつまでも夜啼鶯たちは眠らずにさえずっている

いつか夕陽を観に行った浜辺
鯨が傍を泳いで
大きく深呼吸をした
はぜるように吹き上がる潮
日差しにめまいがする

(この個体は
 ど

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あたたかい砂

あたたかい砂

いっそわきまえていたつもりでいて
足元に流れ込んだ泉の目の覚める温度
いやいやながらに歩きはじめる
行かなくたっていい道を

南国の花の香は勇ましくすらある
ひと噛みの甘さをそこから拝借するたび
色づく口もとが他愛ない

花木のあいだ
千切るたび取り落として
もっとさいわいに顔を上げていられればよかったが
虫たちの歌う音階がそこかしこで燃えて
もがく指先をときどき焦がしていく

(ねえ、針を運んで

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漱ぐ

漱いだ口から淡紅
いちじくの色を
受け止めきれずに吐き出した

口紅を食らって生きることに
なんの疑いも持たなければよかった
拒んだのはいつだったか
なぜだっただろうか

ガーデニア、
雨に焦がれるあの白い花が
わたしの鼻先を撲りつけるたび
ガラス越しの影が走っていく

校舎裏で泣いていた日も
庭のリラの木がはじめて咲いた日も
雨を浴びて誰もいない坂で歌った日も

いつも輪郭をあやふやにして
誰か

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不可視光

不可視光

語りたい景があふれているときの
かえって静謐な(しんとした
幼子にいつか来る死を思わず噛みしめてしまったような
払い落とせない寂寥の

水時計、
わたしの足元からとめどなくせせらぐ川
かわせみが飛びたって
あ、と思うときには大きな獲物を連れ去って
残されたものだけがただ透いている

果てしのないかべがみの白に迷って
そこにそっと額を当てる
迷う先にひとつ
したたり落ちるとすれば
そこにはどれほど純

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