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自己満足のマイクロフォーサーズ論

マイクロフォーサーズ(MFT)。
MFTとは、カメラ界隈ではどのような位置付けのシステムなのだろうか。

写真を趣味とする上で、このようなことは、凡そ拘る必要は無いと思う。しかし、ネット世論で「フルサイズ至上主義」の趣旨の口コミを複数目にし、自信を持ってMFTを持ち歩いてはいけないのか?MFTでは素晴らしい写真が撮れないのか?と疑問が湧いてしまった。

あれこれと考えた結果、自分がたどり着いた答えは、MFTは汎用的では無いが自信を持って推薦したいシステムである。
この記事で、結論を出すまでに考えていたことをまとめておこうと思う。

なお、この記事の話は、あくまでも物性や仕組み(構造上)の特性であり、個々の機材における良し悪しや味付け等の「商品性」はまた別の次元で判断する必要がある。


MFTの特徴とは、小型軽量らしい。

MFTには、規格のWebページが存在する。
(Copyright © 2023 OM Digital Solutions Corporationとあるので文責はOMデジタルのようだ。)

そのなかにこのような記載がある。

マイクロフォーサーズは、レンズ交換式カメラの高画質と小型軽量の最適なバランスを追求しつつ、多様なニーズに対応する機動性の高さを持ったシステム。

「マイクロフォーサーズについて」
https://www.four-thirds.org/jp/about/

MFTは、他のカメラフォーマットと何が違い、何故、「高画質と小型軽量」を(バランスよく)両立できているのか。

何と比較して、高画質?

画質、という言葉は、カメラを扱うひとそれぞれ一家言あると思う。MFTのHPにおいては、デジタル専用設計であることで高画質を実現した、と記載している。フィルムとイメージセンサでは、光の記録方法(枠組み)が全く異なるため、イメージセンサの物理的構造を考慮し、光の経路を整え、可能な限り正確に光の情報を電気信号に変換できることを目指したシステム、ということらしい(多分こんなことを言っている。上記Webページや参考文献[1]を参照すると、技術的背景について把握できる)。

要約すると、イメージセンサで光を捉えることを前提とした設計であり「フィルム時代からのマウントを引き継いだカメラに対し、原理的に画質が良い」と読み取れるように思う。

何と比較して、小型軽量?

世に出た製品を並べると、MFT陣営の製品は、ボディ+レンズの「システムとして」フルサイズやAPS-C等のレンズ交換式カメラシステムより小型である。ボディサイズだけで比較すると、一般論を語る上で偏りがあるが、過去含め私が所有したカメラボディのサイズでは、MFTの一部機種はフルサイズ機と同等の堂々とした体躯を誇る(表1)。

表1. 過去を含む所有カメラサイズ一覧
(一部公式サイトが無く公式諸元ではないデータ有)

小型である理由

MFTは、センサが小さい。
このセンサのサイズが、これから記載する全ての内容の出発点になる。

図1. イメージセンサの大きさの比較

図1で記載したように、センサが小さいことは、イメージサークルが小さいことになり、レンズのサイズも小型化する。

イメージセンサの小ささに起因すること

35mm換算焦点距離が長い(フルサイズ比2倍)

なぜセンサが小さいと35mm換算した焦点距離が延びるのか、は別の記事でまとめたので、必要があればこちらをご参照ください。

同じ35mm換算焦点距離でも、MFTのレンズの焦点距離はフルサイズの半分なので、レンズを小さく作りやすい。特に望遠レンズは驚くべきサイズ感で発売している。

一方で、同じ35mm換算焦点距離のレンズで撮影した場合、35mm換算した写真を見比べると、フルサイズよりもボケない。これはセンサが小さいからではなく、実際のレンズの焦点距離が短いことに起因する。

高画素化しにくい

デジタルカメラの撮影に関するカメラ内部処理を考えると、各画素で受け取った光は、各画素にある電荷を媒介してデータ化され処理エンジンに渡る。各画素の電荷数はイメージセンサ上に分布する電荷の奪い合いなので、画素ピッチが広いほうが一つの画素に多くの電荷が割り当たる。電荷数が増えると情報伝達時の情報量が増え、電気的なノイズの影響を受けにくくなるため諧調性が上がり、細かな差分を表現できるようになる。
これを踏まえたうえで、同じ性質を持つフルサイズセンサとMFTセンサがあるとして、以下の2つの条件を考えてみる。

  1. フルサイズセンサとMFTセンサで同じ画素数の場合:
    MFTセンサの画素の並び幅はフルサイズ比で約半分(=画素ピッチが約二倍)になり、一つの画素サイズは約四分の一になる。

  2. フルサイズセンサとMFTセンサで同じ同じ画素ピッチの場合:
    MFTセンサの画素数はフルサイズ比で約四分の一になる。

条件1のとき、MFTセンサの場合一つの画素当たりの電荷数が減り、ノイズを伝達する電荷数の比率が上がるため、ダイナミックレンジが低下する[1]。
(高感度での撮影は、単純に電圧を掛けてブーストするだけなので、より弱点が顕著になる。)
なお、画素ピッチを細かくし過ぎると、波長としての光に対するサンプリングによる折り返し歪みが発生し情報処理起因のノイズが発生し、画質が低下する。スマホのイメージセンサの高画素化ってメリットよりデメリットの方が多い気がする。

条件2のとき、条件1のような対ノイズの弱点は出ない一方で画素数は劣るため、一定の画素数以下の場合は解像感に劣る。
なお、フルサイズやAPS-C等のフォーマットでは3:2の写真を撮れるが、MFTはセンササイズの縦横比が4:3なので、買ってきたまま写真を撮ると4:3になる。比率を3:2で統一すると、MFTの画素数は更に減ってしまう。

(比較的)お金をかけずにカメラを楽しめる

注:本項目はしっかりと裏付けた話ではありません。
イメージセンサが小さければ、イメージセンサ自体の値段も下がる(参考文献[2]ではコンデジの文脈で小型化は製造プロセスにおける歩留まりが上がりコストが下がると記載しており、MFTセンサも小型であり同様と言えるのではないか)。
そして、レンズが小さければ使われるガラス材の量が減るし、そもそも鏡筒を作る金属ないし樹脂の量も減り、部材費が下がる可能性があるし、レンズ一枚一枚が軽ければ、AFの際にレンズを動かすモータのスペックにも波及するかもしれない。

一方で、一般的に、システムとして小型軽量であれば、例えば三脚やジンバル、もしくは空撮ドローン等周辺機器に対する制約を緩和できる。
ペイロードが重い場合、構造や材質に対し制約が増すため、販売価格が上がってしまう。小型軽量であれば、周辺機材の価格低減への波及効果がある。

では、MFTをどう扱うか?

ここまでセンササイズに紐づけて、フルサイズとMFTの比較をしてきた。
個々の製品の味付けや商品性に関してはまた別の次元の話であることを改めて明記した上で、物性を起点にすると、私はMFTシステムを下記のようにとらえている。

  1. イメージセンサの特徴を考慮したシステム設計による高画質化

  2. 35mm換算焦点距離が二倍であり特に望遠レンズの具現化が容易

  3. 35mm換算焦点距離に起因するボケ表現の制約

  4. センササイズが小さいことによる諧調性、耐ノイズ性の低下

  5. 小型軽量の恩恵を受けた低価格展開

1については、2023年現在、各社ミラーレス専用のマウントを展開しており、デジタル専用設計の優位性は無くなったと思う。

2については、個人的に、まさにMFTの最大の優位性で、野鳥や野獣を撮影したり、運動会やスポーツ、イベント等で望遠が必要な時に、取り回しのし易いMFTは最強である。スマホやコンデジなど、他の小型システムに対してもレンズ交換式である利点は大きく、単焦点レンズや無理のない倍率のズームレンズの存在は大きなアドバンテージになる。

3については、「制約」とは書いたものの、被写界深度を深く撮りたいシーンでは絞り込まなくてもパンフォーカスになるため、回析等の画質低下要因を抑えられる。スナップ写真や動画撮影などではMFTが使い易い可能性がある。一方、制約になるのは、副題を大きくぼかしたいシチュエーションであり、撮影距離や被写体の配置によってはMFTでは限界がある。

4については、物性なのでどうしようもない。

5については、恩恵がある場面もあるしそうでない場合もある。多くの機材を用意して撮影する場合は荷物を小さくでき財布に優しいが、単焦点一本勝負のような場面では機材の値段そのものの差だけになり、一般論としてはまとめられない。

まとめ

MFTは旅行好きなど機動性を重視する撮影者を中心におすすめしたい。コストを抑えながらレンズ交換式の恩恵を受けたい場合にもおすすめできる。一方で作品を作り込む場合や暗所でもシャッタースピードを稼ぎたい場合は、限界が早く来る。

このように結論付けたものの、「良い写真」を撮るためには撮影者の意図(何に注目しどのように写すか)が大事になると思うし、そうでありたいし、そうであって欲しい。

参考文献

参考文献[1]:
蚊野浩、The Journal of The Institute og Image Electronics Engineers of Japan Vol.41 No.3(2012)、
"IIEEJ講座 デジタルカメラのしくみと画像処理"、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/iieej/41/3/41_288/_pdf

参考文献[2]:青野康廣、日本写真学会誌2010年73巻3号、
"講座 デジタル写真の基礎(5) 4. デジタルカメラの光学系(I)"、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst/73/3/73_3_175/_pdf


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