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水素吸入ではどのように体に取り込まれ、運ばれていくのか?

先日、慶応義塾大学の佐野元昭先生の講演で興味深い話を聞きました。
その内容を皆さんにもご紹介します。

今回の実験では、ブタさんに単回吸入という方法を定義づけて、水素ガス吸入を用いた研究を行いました。
なぜ単回吸入という方法を選んだかは、こちらを参照(※)にしてください。

実際に水素ガスを単回吸入するっていうのを、どういう風に定義するのか?佐野先生方が行ったのは、「人間で例えると完全に息を全部吐いて肺をなるべく小さい状態にしてから100%の水素を肺いっぱいに吸い込んでもらう」ということを単回吸入と定義しました。

実験では豚さんを用いたため息を吸ってくださいって言っても従ってくれるはずがないので、全身麻酔をかけて胸も開いた状態で実験を行いました。
人工呼吸器に繋いでいる状況で、豚が空気を吸い込んで吐き出します。
この状態でもまだ肺の中に少し空気が残ってしまうため、
かわいそうですが、手を使って肺を潰して空気も全部出します。
その後、100%の水素ガスを充填した容器から肺に水素ガスを入れて、肺を広げていきます。そして1分間肺を広げたままの状態にして肺の中に水素がいきわたったら、肺の中から水素ガスが血液の中にどんどん取り込まれていきます。
この取り込まれた水素ガスが肺からどのように全身に伝わっていくのか?っていうことを調べました。

血中水素濃度を測定した個所は3箇所です。
脳に水素ガスが行き渡っているのかを調べるために頸動脈、お腹の中の肝臓に入ってくる静脈である門脈、あとは全身回って最後に心臓に戻ってくる肝上下大静脈です。時間をおって、血液を採血して、血中水素濃度を測定しました。

肺という組織は他の組織とは大きく異なります。
肺の主な役割は、空気中の酸素を血液の中に取り込むことです。
具体的には、肺の中の肺胞は空気が入っている部屋と毛細血管との間の壁が極めて薄いということです。
0.1〜0.2µmしかありません。
この壁はとても薄いため肺胞内にあるガスは、この壁を簡単に通り抜けて肺胞と血液の中を行ったり来たりします。
ここを使って酸素を取り込んで、二酸化炭素は逆に外に出すというガス交換が行われています。
水素ガスも酸素と二酸化炭素と同じように肺胞の壁を自由に通過して、容易に血液の中に取り込まれました。


薬として認可してもらうためには、色々な過程を踏む必要があります。その一つの過程に薬物動態という試験があります。
薬物動態では、体の中での薬の動きを検証します。
薬を経口摂取すると、消化管から吸収、血液を通して組織全体にまわり薬の血中濃度が上がっていきます。あるところでピーク値になった後、薬は体の色々な臓器に分布していき、代謝され、おしっことして排泄されたり、肝臓で分解されて、便として排泄されます。
最終的には、薬が体から消えていきます。
化合物を薬として認めるためには重要なことです。
しかし、水素吸入も水素水もこのような情報がないため慶應義塾大学の佐野先生は基礎実験を行い、研究結果を発表しました。

さて、水素水や水素吸入の実験において重要なのが水素がどのくらい血中に入ったのかです。
その血中濃度を測定する方法は2つあります。
一つは、これまで全く薬を飲んでない人に1回だけ薬を飲んでもらい、その薬が体の中でどのように吸収、分布、代謝、されて消えていくのか?というのを調べる方法です。
もう一つは、期間を決めて毎日決まった時間に飲んでもらい、その期間で体の中で薬がどのように分布しているのかを調べる方法です。
この2つが一般的に行われている測定方法です。

ちなみに、薬品の中でもガスが医薬品になっているものは非常に限られています。
一般的に知られている酸素ガス、あとは手術の時に全身の麻酔薬です。
ほとんどが経験的に有効だということで、すでに薬として承認されているので、薬物動態の評価はされていません。
よって、事実上ガスに対しての薬物動態試験結果が存在しないということで佐野先生方は自分たちで考えてこの研究を行いました。
この実験では、薬を1錠、最初摂取したときに、薬がどのように体の中にどのように分布しているのかということに着目し、研究しました。


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