ナウシカ

ナウシカ

宇禰 日和

緊急事態宣言が発令された大型連休に乗換の地下道にいて、ただどこにいくあてもなくぼんやりと発車を知らせるアナウンスや、移動はおやめくださいという聴き慣れてしまった声を聞き流していた。どこにいけるあてもないのにポスターは渋谷にある老舗のカフェや新緑の鮮やかな京都を勧めてくる。どこにもいくことができないのに無人の駅に無人の電車が来て無人まま去っていく。
宛名を書き忘れた手紙みたいな人々が街にはたくさんいるんだろう。
出発点も目的地もないままずっと家に止まるだけのそこにあるだけの命、静かに巣篭もりしていたら繭のような糸に包まれてひたすら優しいだけの生き物になれたりしないのだろうか、人間という加虐性を忘れたふりをして凍結されてしまったちいさな卵のように生きてはいけないのだろうか、何かが全て治るまで、大丈夫になるまでわたしたちは春を待つように長き眠りにつく。
どこにもいけないんだよ、どこにも、
わたしたちは知能を持ってしまったから
ただ、眠ることしかできない。
全てが終わるまで
目が覚めたころ
ここは大きな草原になっているかもね
わたしたちを目覚めさせるのは
新しい生物がわたしたちを破壊するための炎かもしれない、それでもそれでもどこまでもほんとうはわたしたち幸せであったということを忘れたりしたくはない

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宇禰 日和
詩を書きます。