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ふたりだから叶えられること【メロンソーダの泡と日常】

彼と一緒に住むことになったので、その記録を残すことにした。
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ずっと、カウンターキッチン付きの部屋に住みたかった。実家がそうだからというのもあるけれど、壁に向き合って料理をするのはなんだか苦行のように感じて、開放的な空間で料理することを夢見ていた。
不動産情報サイトを見て入れる条件はいつも決まっている。
1LDK40㎡以上、カウンターキッチン付き、2階以上、マンション。家賃、5万円以下。
住みたいエリアも入れて絞り込むと、これがなかなか見つからないのだ。
私は3年近く、この条件で部屋探しをし続けていた。

9月。
「今度引っ越しをするならカウンターキッチンのある部屋に住みたいんですよね」と、彼に話をした。まだ正式に交際していない、少し風の冷たい夜のこと。なぜそんな話をしたのか定かではないのだけれど、おそらくお互いのことを知るために生活の話をした流れだったと思う。とにかく私は、カウンターキッチンのある部屋に住みたいという話をして、「へぇ」と彼はそれを聞き流した。ただの雑談に過ぎない。そのつもりだった。

風向きが変わったのは10月、お互いに「この人と交際することになりそうだな」と確信を持ち始めた頃のこと。
「そういえば、不動産情報サイトをいろいろ見ていたんだけど」
今日あった出来事を話すくらいごく自然に、彼が話を切り出してきた。
「少し家賃を妥協すれば、住みたい条件の部屋がありそうだなって思ったからさ、一緒によさそうなところ探してみない?」
当初の彼の提案は、こんな感じだった。
1.ひとり暮らし分の家賃はこれまでどおり私が出して、差分を彼が出す。
2.部屋には私だけが住む。交際をした暁には、いずれは彼も住む。
もし彼との仲が破綻した場合でも生活できる範囲の家賃で探せば、何かがあっても問題はないはず。半ば勢いでもあったけれど、見つからなければ今の部屋に住み続ければいい話だし何もデメリットはないと思った私は、彼の提案をその場ですんなりと受け入れた。

いくつかの部屋を内見して、その間に私たちは正式に交際を始めた。そして、関係の変化とともに部屋に求める条件も変化していった。
2DK50㎡以上、家賃7万円以下でどう?
いや、やっぱり60㎡くらいはあった方が。
マンションにこだわる理由って何?
2階以上でも、上下左右の部屋の人がいると煩わしいよね。
うーん、そうするとあんまりないんだよなぁ…
毎日不動産情報サイトとにらめっこをし、条件のチェックボックスをポチポチと変え、夜になると通話で相談をした。
そんな中でも、最後まで「カウンターキッチン付き」という条件だけは残っていた。
「カウンターキッチンの条件をなくせば家賃が抑えられるなら、なくしてもいいよ」と言う私と、「それはだめ」と妥協を許さない彼。お部屋探しの期間中、彼は最初の提案である「家賃を妥協してでも私の住みたい条件の部屋を探す」を貫き続けた。

そうして最後に決まった部屋は、2LDK70㎡以上、カウンターキッチン付きのテラスハウス。家賃も想定より抑えることができた。
「夢だったんでしょ、カウンターキッチン付きの部屋。」
一緒に生活するなら家賃優先で考えてもいいのにと思ったこともあったし、ずっと憧れのままだったものがこんなにもすぐ実現できるなんて思っていなかった。
「ひとりでは叶えられない夢も、ふたりならできることだってあるんだよ。」
そう言いニマッとと笑う彼を、心から愛していると感じる。
私ひとりでは実現しなかった夢。彼ひとりでは考えもしなかったこと。でもふたりになって、ふたりの夢になって、叶えることができた。きっと逆も同じで。私には思いつきもしない彼の夢があって、一緒だから叶えられることもあるに違いない。誰かと生きることってこういうことなんだ、と思う。

ふたりだからできること。ふたりだから増える選択肢。
お互いの夢を尊重して、これからの未来を切り拓いていけたらと思う。

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