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深く眠る過ごしかた
家に帰ると大体19時半くらいだ。
玄関とキッチンを通り暗い巣穴に戻るように、薄暗く初夏の蒸し暑さをこもらせる部屋に入っていく。
スーツを脱いでハンガーに丁寧に掛けてからそのまま風呂に入る。風呂に入るのが早ければ早いほど、就寝まで幸福度を高く保てるのだ。
都内のマンションにしては広い風呂でシャワーを浴びながら今日の1日を振り返る。大抵は同じ内容なので途中でやめてしまう。
髪を乾かしながら見る自分の顔はいつもくまが酷くてがっかりする。化粧水が前髪に付かずに塗れると嬉しい。洗面所の掃除、今週こそはしよう。洗面所に来ると脳が忙しい。
最近は夕飯を作るのも憂鬱になってきて、週半ばくらいになると作らないことが増えてきたが、疲れた体に鞭を打ってチーズオムレツを作った。自分で作るオムレツが世界一だ。
母が作っていたオムレツは美味しかった。キッチンでまな板に向かい野菜を刻んでいると、毎日夕飯を作ってくれた母を思い出す。実家の家族は元気だろうか。いとしの猫たちは-----
そんなことを考えていたらひき肉が焦げそうになるし、バターを入れるのを忘れた。バタバタとひき肉をいじり出すと冷凍が終わったことを伝えるレンジの電子音が鳴り出す。
我が家のレンジはかまってちゃんなので、中の食材を取り出すまで絶対に泣き止まない。家電とかの電子音って暫くしたら止まるのに。最初のうちは可愛く思えたが今はいつ壊してしまうか分からないくらい煩わしい。
忙しくあれこれやって、あと牛乳を混ぜなければと思い牛乳を取ってきたらドアにぶつかり床にブチまけてしまい絶望した。床を拭きながら横を見ると炊飯ボタンが押されていない炊飯器がこちらをみていた。
全てが嫌になって全部捨てようと思ったけれどなんとか完成したオムレツは美味しい。いつもの絶品オムレツ(自称)ができた。
満腹で幸せなままテレビでNetflixを見る。洗い物は明日の自分がやってくれるし、風呂は既に入ったから、後は寝るまで何をしても自由。この時間が私の平日の幸せだ。
平日は出来る限り幸せに終わるように心がける。夕飯を食べ終わったら部屋を暗くするし全てを忘れてダラダラする。10時半には布団に入る。
私は高校生あたりから寝付きが悪くて、長ければ2・3時間くらい布団に入ってから眠れないこともざらにある。
眠れぬ日々の夜は長く、静かに思考が派生していくため徐々に目が冴えていってしまう。
社会人になってまでその睡眠時間では致命的なのでとにかく眠るためにあれこれやってみたが、1番効き目があったのは、
部屋を暗くする
筋トレする(疲れる)
つまらない小説を読む
の3点セットだ。ちなみに面白い小説は眠れなくなる。
最近寝る前に読むのは村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」だ。
ウジウジした無職の主人公に不幸で不可解な事件があれこれ起きるのだが、主人公は永遠にウジウジしている話だ。いつまで経っても読み終わらない。気持ちよく寝落ちできる本なのでおすすめ。
今日もテンポの遅い、遠回りな表現ばかりする小説を読んで寝落ちしようと思う。小説を読んでいて文字列が毛糸のように見える時があって、そこが寝落ちできるタイミングである。
今日も文字が溶けだして、絡まるまで本を読んでから眠ろうと思う。そうすればすぐに朝が来る。眠れぬ日々は終わったのかもしれない。
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