春闘団交記録異聞
「回答書を用意したよ。受け取りたまえ、書記長」
バサリ。「ゼロ回答」と書かれたビラが床に広がる。
無言で拾うおれの頭を、社長のフェラガモが苛む。
これが団交だ。
おれたちの賃金は下がる一方で、製本機に16分割されて死んだ後輩への補償もない。
当然違法だ。だがもはや法に強制力はなく、訴えても最高裁判決までに餓死するのがオチだ。
泣き寝入りしたくないのなら、団交で直接やるしかない。
社長はこの場を楽しんでいる。労働者も手下の役員も、あらゆる人間が自分を恐れ顔色を窺う。
その快感を味わうために、奴は交渉に応じる形で団交に現れる。そこに隙がある!
おれは奴の足を跳ね上げ、よろめいた頭めがけA4大の石板をフルスイングした。
SMASH!
「…危ない危ない、『汝殺すなかれ』じゃなかったのかァ?」
先輩が、いまや社長の最側近であるブタ野郎が「ハムラビ法典」を掲げて挑発する。
おれの「十戒」は防がれた。
だが春闘は始まったばかりだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?