開始から2時間。山形空港愛称検討委員会の最終決定会議は軽傷2名、重傷1名を抱えたままデッドロックに陥っていた。 だだっ広い会議室の反対側では、庄内空港愛称検討委員たちが虫の息で横たわっている。 時間がない。おれは覚悟を決めた。 「ご、5票、過半数のため愛称は『山形芋煮空港』に決まりま」 1時間前、哀れな議長は開票結果を言い終えることができなかった。 爆散した開票箱が彼の顔面をさくらんぼジャムに変え、彼はそのまま1時間声を殺して会議終了を待ち続けている。 終わるまで誰も会議室
「0100010010010100」 助けて、と女は言った。俺と同じ制式最適化ローブで外見情報は一切ないのに、なぜか俺には依頼人が女とわかった。 視覚と聴覚のクラウド保存が実装されてわずか3年。 上の連中による保存の義務化にも、サーバ国営化にも正面から反対する奴はいなかった。 皆、思い出が大事なのは同じだ。 すぐに容量の枯渇が最大の社会問題となったが、自動保存は止まらない。 容量は金で取引され、やがて貨幣そのものとなった。 生きるとは時給983KBの仕事で容量を稼ぎ、感覚
頑なにケータイを持たないでいた先輩が、急にICチップを脳に埋め込んできた。 しかもSuicaだという。 「いちいち切符を買わなくていいのは便利だよなあ」 タッチ部分にお辞儀して改札を通る先輩は誇らしげである。 前頭葉へのインプラントは保険も効くし日帰りで十分な術式だが、雑な術後管理のために脳をカビらせて死ぬ例もある。思慮深い彼ならリスクを考慮し、きっと死ぬまで紙の切符を使い続けると思っていた。 「SuicaかPasmoかで迷ったけど、ペンギンが可愛いからこっちにしたんだ
「回答書を用意したよ。受け取りたまえ、書記長」 バサリ。「ゼロ回答」と書かれたビラが床に広がる。 無言で拾うおれの頭を、社長のフェラガモが苛む。 これが団交だ。 おれたちの賃金は下がる一方で、製本機に16分割されて死んだ後輩への補償もない。 当然違法だ。だがもはや法に強制力はなく、訴えても最高裁判決までに餓死するのがオチだ。 泣き寝入りしたくないのなら、団交で直接やるしかない。 社長はこの場を楽しんでいる。労働者も手下の役員も、あらゆる人間が自分を恐れ顔色を窺う。 その快