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入金日1週間前、残高わずか20MB

「0100010010010100」
助けて、と女は言った。俺と同じ制式最適化ローブで外見情報は一切ないのに、なぜか俺には依頼人が女とわかった。

視覚と聴覚のクラウド保存が実装されてわずか3年。
上の連中による保存の義務化にも、サーバ国営化にも正面から反対する奴はいなかった。
皆、思い出が大事なのは同じだ。

すぐに容量の枯渇が最大の社会問題となったが、自動保存は止まらない。
容量は金で取引され、やがて貨幣そのものとなった。
生きるとは時給983KBの仕事で容量を稼ぎ、感覚を劣化させて自分と周囲の負荷を減らすことだ。

「報酬は300GB」
ローブを脱いだ依頼人が旧話法で言う。上級サラリマンの生涯賃金に相当する額。
依頼内容は破産者の救出。
例の、破産者は1,024TBの生体サーバとして金持ちの思い出作りに使われるという都市伝説。
断るしかないヤバい案件。
だが俺は、女の七色に煌めく髪と完璧な発音に血迷ってしまった。
【続く】

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