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〈小説〉スカートとズボンの話 #1

1992年 華 14歳

 栗色の髪をしたモデルは、褪せたブルーのジーンズを穿いている。
「リネンのシャツに、ウォッシュ加工されたワンサイズ上のリーバイス501。メンズサイズをルーズにまとうことで、強く女性を感じさせます」

 わたしはベッドに寝転がって、雑誌のその写真を眺めた。
 「リーバイス501」は、少しルーズに、でもまっすぐに彼女の脚をつつんでいる。そしてお腹のくびれの少し下に、ウエスト部分がやんわり引っかかる。素敵。

 リビングではパパとママが、ニュースをみながら何か話している。わたしは部屋のドアを少し開けて、聞き耳をたてた。
はなにだって、意思があるだろう。意見くらい聞かなくてはね。最終的にこちらが決めるにしても」
「あなたは甘いのよ。もしあっちを選んだりしたら、華の将来がどうなってしまうかわかってるの」

 最近テレビでは、「女性カイ・センタクホウ」という言葉をよく聞く。なんのことか、わたしにはさっぱり。

 この間はニュースで、国会で、人がわぁわぁ詰めかけて大変なことになっていた。おじさん議員が「カケツします!」とか言って、赤や白や黄色のスーツを着た女の人の議員が、それに詰め寄って乱闘になっていた。よくあるやつ。

 でもわたしにも何か関係がありそうな、嫌な予感がしていた。
 わたしは、こっそり持ち出した数日前の新聞を広げた。

「女性下衣選択法」が、X日可決された。Y月Z日法案が提出され、わずか5日でのスピード可決となった。
「女性下衣選択法」は、14歳以上の女性が単筒型たんとうがた下衣かい(俗に言うスカート、以下単筒)か複筒型ふくとうがた下衣かい(俗に言うズボン、以下複筒)のいずれかを選択し、生涯に渡り選択したもののみの着用を義務付けるもの。
「幸福追求権」等をうたった憲法13条に抵触するおそれがあり、女性の権利の侵害にあたるとして野党が猛反発したが、議論が深まったとはいえず、強行採決にいたった。

1992年Y月Y日 毎朝新聞 社説(抜粋)

 うーん、なんだかむずかしい。わたしは新聞をとじてため息をついた。


つづく


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