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家族のはなし-父

父はスキンヘッドだ てっぺんの髪が金輪際生えてこないようなのでその他の生えてくる髪を剃り込んでいる。そのうえ、外での仕事も多いので日焼けしており、髪は生えないくせに、立派な髭をこさえているので見た目が怖いと言われがちだ。
わたしが中学生の頃、仲の良い友人はふざけて父のことを「あんたのお父さん、前科あるもんな」と言っていた。ほんとうにそう見えてしまうので、なんとも際どいジョークだと思う。

父は偏屈だ。訳の分からない自分なりの理屈を通してフンっと鼻息をならすいけ好かない男だ。
父が高校の頃、生徒手帳に「服装は白いシャツに黒いズボン」と書かれていたからといって、白いポロシャツ、黒のジーンズ、下駄を履いて登校していたという。(もちろん生徒手帳のそれらは制服のことを指しているし、全くの校則違反だ)もしわたしが同じクラスにいたら、そんな奴たまらなく嫌いだったと思う。
だけど、父の高校卒業時のアルバムやクラスメイトからもらう寄せ書きには、やたらと女子から人気があったよ、シャイだったけどみんなの人気者でしたね、ど根性ガエルの梅さんみたいなどと書かれていた。

そんなクラスの人気者であったらしい父も歳をとり、眉毛が年々のびてきて、とびきり長いやつが両眉一本ずつあるオヤジに成り果てた。
この眉毛については、日々母や娘のわたしたちから散々切れと言われているのだが、そのたびに「ええやんか」などと言いヘラヘラ笑って切らずにいる。
 高校の同窓会の日、着ていく服やら鞄やら、ハンカチまで。アンタは息子か?と言いたくなるほどすべての準備を母に委ね、あとは送り出すだけだと息切れせんばかりの母に対して父はおもむろに、

「眉毛、変やろか 笑われるかな」

と言っていた。
母はそれに対して

「こうやって横に流しとけば大丈夫だよ」

と答えて父の両眉毛を撫でつけた。

その日、すっかり酔っ払って帰ってきた父の眉毛はいつも通り、ぴょこんと触覚のように顔をだしていた。
眉毛を見つつ、楽しかった?と聞くと「別に普通やったわ」と笑っていた。

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