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「お金に対する思い込み」・・・ちょっとした軽い話題。でも、よ~く考えると重要なことが書いているかも。


生前商売をしていたオヤジは、
「銀行という所は、雨の日に傘を貸して、土砂降りになったら傘を取り上げるところだ」
とよく話していた。

学生の頃は、そんなものか、と気にも留めなかったが
社会人になって仕事を始めると、その言葉の本質が気になってきた。
果たして実際はどうなんだろう。

そこで俺は、ある地方銀行に入行した友人の陣野にオヤジの話をして聞いてみた。

「それは、良く言われる啓蒙本に出てくる格言のひとつだろう。
借りる方からしてみれば、そんな風に思える瞬間があるかもしれないけど、
全てじゃないよ。
確かに成功する人は銀行の力を借りなくても成功するし、
ダメな人は借りてもダメ。
成功するかしないかの境目にいる人に力を貸すのが一番面白いね」

「じゃあその境界線にいる人をどう見分けるんだ?」

「経験で言うとね。ダメな奴は2種類ある。
まず、他人に気軽に金を貸したり、あげたりするのはダメだ。
財布の紐が緩いという事だから、金は溜まらない」

「ふんふん」

「もう一つは、ケチ。倹約は良い事だけど、渋りすぎても良くない。
金が金を呼ぶなんて言うのは幻想さ」

俺はちょっと違和感を感じたが、上手く言葉に出来なくて、続きを聞いた。

「じゃあ。ダメじゃないのは」

「まず、困った人への援助を惜しまない人。篤志家って奴だな。
使ったお金がさらに大きくなって返ってくる。
二つ目は飾らない人。金があるからと言って、派手な車や宝石類を
着けたりしない」

ここまで聞いて、俺の疑念ははっきりした。

ダメな奴は、人に金を貸したり使ったりする奴と、ケチで全く使わない奴。
良い奴は、篤志家で人に金で援助する奴と、無駄に金を使わない奴。

つまり、両方同じで
「使っても使わなくても同じ結果の可能性がある」ということ。
結局、成功の秘訣はお金を使うか使わないかではなく、別の要因なのだ。

俺は陣野の話を聞き流しながら、その要因について考えた。
使う人間にも使わない人間にも成功者がいるのなら、
おそらくは、使う限界や使い方を知っている人間だ。

余計な誘惑に対する節度ある自制心と、使う先の事をよく調べる事なのだろうな。俺は陣野の経験談からそう結論付けた。
勿論、陣野に「お前の言ってることはこういう事だな」なんて
わざわざ伝えない。違う側面から可能性を語ると、陣野は怒る。
同じことを違う言葉で表現しているのを理解できないのだ。
彼は彼なりに段取りに則って持論を語っているのだ。

そう言えば、学生の頃陣野は、電話営業してきた奴から、
何十万もする英会話教材を買った事があったな。
「今がチャンス。今買っておけば未来が明るい」と言われたんだっけ。
しかし、陣野は未だに英検3級も取れないでいる。
別の業種に就職して経験を積んでいれば、陣野も違ったかも知れないな、と思った。

そんな事を考えていると、陣野が身を乗り出してきた。

「あと、もう一つ。成功する奴は、俺の経験では名刺交換会などに
参加して、ビジネスチャンスを広げてる」

「へえ~」

やや冷め気味の俺に向かって、陣野は言った。

「来週、ウチの銀行主催の他業種懇談会があるんだ。
凄い業界の人たちが来るからさ。参加してみないか。
ちょうど定員に飽きがあるし、今がチャンスだよ」

俺は「節度ある自制心」を使って丁重に断った。

不満そうな陣野の顔に「ノルマ」という文字が見えた。

                おわり



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