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怪談 超ショート あっという間に読める恐怖の物語。

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実体験、体験者からの伝聞、創作など、様々な怪奇と不思議な短編をまとめました。 #ショートショート #短編 #怪談 #不思議 #恐怖
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2022年11月の記事一覧

『理子さんと俺』・・・奇妙なママ母に翻弄される俺。ラヂオつくばバージョン

先日ラヂオつくばで放送された朗読作品を一部改訂したものです。 「理子さんと俺」 中学校から帰ると、リビングのソファーで、 タイトなワンピースを着た女が煙草を吸っていた。 「理子さんだ。結婚しようと思っている」 女にぴったりと寄り添った父が、 知り合ったきっかけや、女の良い点などを話した。 「母さんが亡くなって10年。これでお前も寂しくないだろう」 父は何かと言うと、恩着せがましい口調になる。 好きだからこの人と結婚したい、で十分なのに。 俺は、持っていた百円玉をテ

「就活の終わり」・・・怪談。あっという間に読める怖い話。

私は、就活の最後にある整形外科医院の面接を受けた。 その医院の院長は、私の全身を舐めるように見回した。 「君は無限の可能性を秘めているね。最高の顔にしてあげるよ」 就職難の現代、何十社も就活を失敗した身としては、 この医院を逃したら次は無い、という覚悟で臨んだ。 その覚悟で、私は「就職の条件」を受け入れたのだ。 この医院に就職する条件はただ一つ・・・ 院長の手術を受けることだった。 3回目の面接の後、私はエントリーシートと書かれた契約書にサインをし、そのまま手術を

「香り高き女」・・・怪談。会社で噂の彼女は。

「あの娘ってどんどん香水がきつくなるわね」 給湯室で女子社員が話しているのを聞いて、俺は思い当たることがあった。 総務部の千田タケコだ。 タケコが一階でエレベーターに乗ると、8階層離れた企画部にまで 香りが漂って来るし、その残り香も長く残る。 退社時にタケコと乗り合わせて香りが移ってしまい、ディナーを食べようと待ち合わせていた彼女が怒って帰ってしまった、と嘆く新人社員もいる。 「タケコ、エレベーター使用中・・・」 なんて口の悪い女子に陰口を叩かれているのを聞いたことも

「勇気を出して」・・・怪談。あっという間に読める怖い話。

弁論の全国大会が、日本海に面した小さな町で行われた。 優勝したのは、高校2年生の女の子だった。 多くの不運に見舞われ、家族を失ったその女子高生は、 全てに絶望し、真夜中に家を出て街をさまよっている時に、 たまたま声を掛けてきた見ず知らずの紳士から、 ある言葉を授けられたという。 その言葉が勇気を与えてくれたのだ。 彼女は、その紳士から言われた言葉をたくさんの人に伝えたくて、 弁論大会に出場したという。 彼女は万感の思いを込めて、壇上からその言葉を放った。 「私たちは、未

「シェアアーマー株式会社」・・・R怪談。誰もが扱える時代に。

昨今は、シェアブームである。 シェアハウスやシェアオフィス、カーシェアなど、そのジャンルは多岐に渡っている。 「武器をシェアしませんか?」 居酒屋で一人飲んでいるシュン(仮名)の隣りに、スーツを着たサラリーマン風の男が座ってきたのは、酔いもかなり回っていた頃だった。 「武器だって? 何の冗談だい。武器をシェアするのか、何の武器を」 「ほら、つい最近も隣町の企業ビルで、立てこもり事件があったのをご存じでしょう。こんな物騒なご時世では、いつ戦争やテロに巻き込まれるか分かり

「葵さん」・・・いつも連れている縫いぐるみは。

「こちら『葵さん』。 俺たち、2週間前から付き合ってます。この通りすごく可愛いんですが、ちょっとヤキモチ焼きなところが玉にキズです」 新人歓迎会の席で、同期の森田は、つぎだらけでボロボロの鮫の縫いぐるみを持って、言い放った。 課の社員全員が灰色の鮫と森田の嬉しそうな顔を見比べてドン引きする中、二つ先輩の宮野さんだけが、「可愛い」と言った。 「ね。可愛いですよね。このヒレが少し取れそうになっているところが何とも言えずに愛おしいんですよ」 「違うわよ。私が可愛いと言ったの

「探してはいけない」・・・超ショート怪談。五百羅漢に秘められた言い伝えとは。

五百羅漢とは、様々な顔をした修行僧などの群像で、 数は五百とは限らず、数百から数千の場合がほとんどだ。 そして、その羅漢像の中には、必ず自分に似た顔をしたものがあると言われ、有名な寺などでは自分の顔を探そうと、熱心に見て回る観光客も少なくない。 これは、高速道路のドライブインで偶然知り合った高齢の男性から聞いた話だ。 仮にイイダさんとするその男性は、東北のとある小さな村の出身であり、村の外れに古い廃寺があった。 その寺はかつては檀家も大勢いたのだが、村の過疎化に伴って管理

「怪談会の伝統」・・・怪談。夏のキャンプで怪談会を始めたら。

俺の所属する大学生の怪談サークルは、毎年地域貢献のボランティアとして、小学生を集めて夏キャンプを行なっている。 例年地元の子供たち、ニ三十人が参加してくれる。 みんなのお目当ては、もちろん大学生のお兄さんたちが話す怪談会だ。 体育館に俺たち大学生を囲むように車座になり、部員たちが順に怖い話をしていく。中にはプロ並みの話の名手がいて、子供たちの緊張感は高まっていた。 俺は自慢では無いが、話すのが苦手だ。ちゃんと怖がってもらえるだろうか、と不安になる中、ついに順番が回って来た