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The JOJOLands感想 13話「その年わたしに起こった不条理な出来事」

あらすじ

今回の話は前半でジョディオとドラゴナの過去、後半は溶岩の効力を知ったメリルが新たなミッションを下すインターバル回。

4年前のドラゴナは転校して間もなく、穏やかな性格も災いしてかクラスメイトの少女に凄惨なイジメを受けていた。

イジメ女の親は学校に多額の寄付をして地位を確立しており、周りの生徒はドラゴナへのイジメを諌めるどころかそれに乗っかって嘲笑している。
唯一、ドラゴナを擁護するクラスメイトもちょっと注意するだけで身体を張ってまでドラゴナ側につくような気配もないという状況だった。

そんなドラゴナの前に11歳のジョディオが現れ、イジメの報復になんとクラスメイトを閉じ込めたバスを炎上させるという処刑を行う。

バスに紛れ込んでいたインコを助ける為にジョディオは鎮火させたものの、それが原因で巡り巡ってジョディオの父が勤めていた保険会社をクビになり、両親は離婚。
母のバーバラの稼ぎは乏しく、どんどん生活が苦しくなっていく中、二人の前にメリルが現れ、ビジネスに誘う。

そして時は現代に戻り、チャーミング・マンがメリルに溶岩について知る事を説明する。
フアラライ山の溶岩チューブから流れ出ており、広い土地の中で露伴が見つけたのは二個のみ。山の上の方ではもっと大きいものがあるようだが、そこはHOWLERという会社が土地を所有しており、調べようとする必ず社会的な横槍が入る。
状況を把握したメリルは溶岩をHOWLERが所有する権利書や通帳に近づけ、溶岩の力で奪取、会社を乗っ取るという大胆な作戦を考えつく、という所で次回の続く。


今回の話は実質二本分のボリュームがあり、かなり読み応えがあった。もともと荒木先生がSBRの途中で掲載紙をWJからUJに移したのは要望の一つに「じっくり描きたい」というものがあったが、ウルジャンの移籍してから既に20年近く、すっかり荒木先生の月刊のテンポ感に「馴染まされた」なぁと感慨深くなる。

無論、世間的にはWJ時代の3~5部あたりのスピード感が未だに根強く支持されているのはわかっているけれど、たとえ本流から外れても自らの強みと成長に真摯だからこそ今日まで生き残り続けた作家なのだなぁ、とも思うわけです。

それはさておき、本編の感想。

クソ限界一般人と人体破壊が今回も光る

ドラゴナを虐める女のクズ描写が相変わらず荒木先生という感じでノリにノっている。バレーボールで誤ってドラゴナにボールをぶつけられ、最初は和やかに対応するも次の瞬間には豹変してキレ出す、もはや老舗の味と言っていい荒木演出。
「乳首をビューラーで挟む」なんてめちゃくちゃ地味に嫌で痛そう。荒木先生、ジョナサンをイジめるディオから連綿と続くドス黒いイジメを考えつく手腕は衰えていない。
単に派手でグロいのではなくて、現実で見てない所でありそうな手触り。こういった陰湿さは6部の女囚たちの描写でも輝いていたが、ここでさらにリアリティある質感になっている。

雨粒の重さでイジメ女の瞼を貫通させるというのもこれまた地味に嫌な人体破壊描写で、それが次の日には絆創膏を貼っただけでケロッとしているのもまた味(どうでもいいっちゃいいんだけど瞼やられたのに眼帯とかじゃなくて頬に絆創膏貼ってるだけなのは何故??)

不条理

ドラゴナへのイジメの報復にクラスメイトを巻き込んだ放火は、額面だけではないサイコパスのエピソードを強く感じた。処刑の実行を途中で辞めたのも「インコが巻き添えになるから」という、まるで人間は容赦なく殺すが犬や花は守ろうとするカーズに通じるような非人間性だ。

結局、イジメ女の親の圧力で通常の10倍もの保険金を認めたジョディオの父は保険会社をクビになってしまう。
ジョディオの自業自得というのは簡単だが、クラスぐるみのイジメへの抵抗の代償と言うには、当事者からすれば明らかに不条理だろう。

荒木先生は文庫版ストーンオーシャンのあとがきで「攻撃される季節」という概念を語っている。
これは青信号になるまで決して横断歩道を渡らない、と書いただけなのに周りから「いい子ぶってんじゃあない!」と怒られたエピソードのように、非が無いはずなのに責め立てられる状態の事を指している。今作での不条理という言葉は、この概念をさらに拡大解釈したものだと思われる。

親と社会、公益

放火事件は当然、両親の知る所になるが、父も母のバーバラも全く気づく様子がない。サラッと父親の姿が出てくるが、台詞はなく意図的にキャラを透明化させている印象を受ける。強調しないという事はごくごく普通の父親なのだろう。

ここで気になるのは兄弟と両親の関係性だ。特段冷え切っているわけではないが、ドラゴナのイジメについて両親はまるで察しておらず、緩やかな断絶を感じる。現在の生活はジョディオ達の裏仕事のお陰で成り立っており、バーバラは母親でありながら既に頼れる存在どころか「保護対象」なのである。

ここで比較として4部における仗助と母の朋子の関係性を参照してみよう。

朋子は仗助が密かに街を守っている事はおろかスタンドすら知らない。
だが、作中の随所で二人がお互いを理解している描写が挟まれており、東方家は母子二人と祖父だけの、複雑な家庭環境ながら奇跡とも言えるほどの和やかな家族関係が形成されている。
ごく普通の両親のもとに生まれたジョディオとドラゴナ、シングルマザーを母に持つ仗助でかなり対照的だ。

そもそも、前部のジョジョリオンにおいても家族の断絶や対立が描かれており、決して今回から突然出てきたテーマではない。
シリーズを振り返ってみると、旧ジョースター家の1~6部におけるジョジョ達の親子関係は比較的良好なものが多い。

承太郎を疎んでいた徐倫にしてもそれは深い愛情の裏返しだったし、例外と言えるのはネグレクトに近い扱いを受けていたジョルノぐらいだろう。
だがジョルノも自分を救ってくれた名もなきギャングとの出会いが親代わり、人生の指標となったのは言うまでもない。

SBR以降のジョジョ達は自分の支えとなる大人の保護を受けられず、世の中に放り出された主人公が「社会」とか「理」を前に翻弄される様が描かれている。

かつてジョナサン・ジョースターから始まった血統の物語は、始祖であるジョナサンの高潔さゆえに、その系統にいるジョジョ達もまた立場や形は違えど「正しいことの白」に立っている事が言外に保証されていた。
だが、6部でプッチ神父の「定められ、自明である運命」を否定した事により、同時に「正しい白を歩む運命」であるジョースター家もまた消滅する。

それ以降に出てきた敵は、DIOのような圧倒的な個としての巨悪ではなく、必ず何かしらの「公益」が絡んだメカニズムとしての背景を持っている。
教誨師としての立場を利用していたプッチ神父でもその片鱗は出てきたが、7部はストレートに国家の安全と繁栄を望む大統領、8部は医療機関に所属するグループと明らかに社会性を纏っている。
ジョジョリオンの羽伴毅が「公益は悪はでない」と言い切っているあたり、意図的な配置と思われる。

HOWLERが今後どう絡んで来るかは不明だが、順当に考えれば次の敵になる可能性が高く、だとすればジョジョにおいて会社組織が敵になる展開は初ではないだろうか(会社員がラスボスだった事はあるが……)。


今後の展開は?

色々と気になるところだが、個人的にメリル・メイ・チーの立ち位置も密かに注目している。クセのある人物たちをまとめる老獪な女性ではあるものの、意外にもジョディオ達への対応は今のところ穏当だ。
溶岩についても、「隠し事をするな」と高圧的になるのではなく「厄介になって泣きつく前に言ったほうがいい」と上手く誘導してジョディオ達から自然と情報を引き出している。
当初は疑いの目で見られていたウサギの人選も今となっては妥当という他なく、洞察力も度量も申し分ないものを兼ね備えているトップと言えるだろう。

とはいえ、あくまでジョディオ達との関係はビジネス以上のものを感じず、状況次第ではアッサリと手のひらを返してしまうような底知れなさも否めない。今後の展開でジョディオ達との対立する可能性も十分あり得るだろう。
もちろん、単なるフィクサーポジションでスティール氏よろしく要所要所に出てくるだけ、という事も全然あると思われるが……。

ともあれ、チャーミング・マンを含めて5人となったメンバー。
今後の権利書争奪戦で本作の勢力図が一気に判明してくると考えると、ワクワクが止まらない。


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