「日本と韓国どっち応援するの?」というよくある質問

 サッカーワールドカップは日本がグループリーグを突破し、クロアチア戦で敗退したものの、世間ではたいへんな盛り上がりをみせていたようである。我が家でも父親が夜中にテレビで大音量で観るもんだからたまったもんではなかった。
 僕は個人的な理由からサッカーが好きではないので(この理由については語れば長くなるので割愛)サッカーワールドカップも観ないのだが、このようにスポーツ大会が盛り上がるのはいいことではないかと思うのである。これが来季のJリーグ集客増につながればいいのだが、効果はどれほどなのだろうか。

 さてこのような国際大会があると、僕のような在日韓国人は必ず尋ねられることがある。「日本と韓国どっち応援するの?」である。
 今回は日本がクロアチアに、韓国がブラジルとどちらも王者に負けてしまったので日韓直接対決はなくなったが、オリンピックであれサッカーワールドカップであれ、日韓対決となるとこの質問が飛んでくる割合が高くなる。

 「俺も在日やけど聞かれたことないで」という人もいると思う。でも僕は聞かれる。韓国学校出身で、日本国籍ながらふだんから李という名字で生活し、民族団体で幹部まで務めた、民族エリートである。なにせ名前に関しては、日本国籍で日本語の名前だったものを20万円払ってわざわざ李という名前を取り戻した。なのでいったいこいつはどっちを応援するのだろうと気になるのだろう。

 悪意をもって質問を飛ばし、僕の回答を聞いて「やっぱり在日は反日か」と言いたげな連中はいつの時代にもいる。もちろん大多数の人はそういった悪意を持たずに、単に好奇心から気になるのだろう。「在日韓国人はどっちを応援するのかな」というくらいの。

 残念ながら僕はその質問に答えることができない。なぜなら、サッカーワールドカップに死ぬほど興味がないからである。オリンピックも興味がない。なのでみなさんの好奇心に答えることはできないのである。

 僕がずっとやっていたラグビーでは、国際試合は僕が好きなスプリングボクス(南アフリカ代表)が勝てば満足だ。まずラグビー日韓戦は韓国は日本に勝てない。一時期は七人制で韓国が力をつけていたが、最近はそれも差がついてきた。

 「在日韓国人ってどっちを応援するんですか」と尋ねられることもあるが、それも知らない。自分の経験則では韓国を応援する人が多いが、それは「自分は韓国人だ」という出自に疑いを持たない人間に囲まれた環境にいたからであって、そういった環境でも「日本を応援する」という在日もいたのだから、集団としてのアイデンティティが一定していない在日韓国人社会の総意など割り出すことはできないのである。
 うちの父親は韓国の結果を気にしていたが、冒頭で書いた通り夜中に日本の試合をみて一喜一憂していた。ふだんサッカーを観ないのにサッカーワールドカップになれば応援するというのは一般的な視聴者と変わらないだろう。
 まあとにかく僕は、そんなものどうでもいいのである。サッカーやオリンピックには興味がないし、野球だって勝手にやってくれというかんじだ。ラグビーは話にならないし、そんなもので他人のアイデンティティをどうこう言えるものでもない。

民団でサッカー日韓戦の観戦に動員されたとき、国歌斉唱で大きな国旗の下に入った。

 そう語ったところで僕の胸の内を明かして締めたいと思う。
 僕がサッカーやオリンピックなどの国際試合にまったく興味がないのはほんとうである。「〇〇の競技で日本と韓国の試合があるぞ」と言われても「あー、そうなんだ」以上の感想は出てこないし、観ない。
 本題は翌日である。日韓対決、もし日本が勝ったと聞いたら「へえ、そうなんや」である。ああ勝ったんだ、よかったやん、次はどこの国と試合すんの。悔しさも感じなければ、日本が勝って嬉しいということもない。

 韓国が勝ったら、どこかスカッとするのである。
 日本に勝って心の底から嬉しさが込みあがる、というほどではない。そもそもサッカーには興味がないし、ほかの競技であれば尚のことだ。翻る太極旗(大韓民国旗)に誇らしさを感じるというものでもない。ただどこかで、勝ってやったという気になるのだ。
 在日韓国人がみなそうだというわけではない。日本が負けて悔しいという人もいれば、韓国が勝って喜ぶ人もいるだろう。繰り返して言うように我々の帰属意識はひとことでまとめられるものではないが、僕はここで「自分は韓国人なのだ」という意識を感じる。

 サッカーであってもどの競技であっても、韓国が日本に勝てば、心の底で僕の愛国心とは言えないなにががニヤッと、ほくそ笑むのである。

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