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第二巻 巣立ち  11、奨学金

11、奨学金

※この小説は、すでにAmazonの電子版で出版しておりますが、より多くの人に読んでいただきたく、少しづつここに公開する事にしました。

 ある日、伊山が「お前、小遣い欲しくないか?」というので、「そりゃ欲しいさ」と答えたら、「奨学金という手があるぞ」と言うので、伊山と奨学金の申請に行った。これは、親の収入が審査され、少ない場合は日本育英会から受けることができるものである。伊山の親は普通に収入があり、審査では俺だけがパスした、うちは貧乏だった。俺は、思わぬ収入を得てルンルンの高校生活であった。

高校卒業が近くなったら、大学でも奨学金がもらえるので申請しろと育英会から連絡があった。大学では、普通奨学金と特別奨学金というのがあること、特別奨学金は、額が高く、学校関係に就職したら返還無用となるらしい。ただし、こちらは学力試験があり合格しなければ認められない。俺は受験したがダメだった。学力不足ということなのだろう。

 ところがこの年は、学生運動がたいへんな年で東大と東京教育大学の入試が無くなった。俺は、この年の東工大はとても無理なので、都立大学と埼玉大学を受けた。私立大学は受けなかった。都立大学の試験は、知能試験みたいに数が多くて時間が少なく、俺には向いていなかった。埼玉大学の試験は、記述式が多く、俺には向いていて、試験が終わった時点で受かったと思った。

それ以外に、駿台予備校も受けて、午前部理科のFクラスに受かった。これは成績順で、Fクラスはかなり下の方だった。ちなみに、伊山はBクラスで合格していた。俺は、高校までの授業にうんざりしていて、とても浪人をする気になれなかった。伊山は、東大病患者だから一浪することになった。俺は埼玉大学の入学が決まった時、駿台予備校の入学を断りに行った。驚いたことに、駿台予備校は、入学金の大部分を返還してくれた、善良な予備校だ。多くの私立大学も真似すべきだ。

 埼玉大学に入学したあと、俺は育英会から普通奨学金をもらうことになっていたので、合格した旨の報告を出した。その時、俺は一計を案じた。今年は東大の入試がなかったので、多くの学生が一浪になっている。何しろ東大の合格者数はとても多いので、それが一浪に回るということは、特別奨学生の数は少ないだろう。予備校では、奨学金は貰えない。育英会の奨学金予算が余って困っているのではないかという予想だ。

俺は、「本当なら俺も一浪して東大を目指したいが、家の事情でそうもいかない。本当に必要としている人に特別奨学金は与えられるべきではないのか?」という内容の手紙を加えておいた。なるべく心に沁み込むような、切々とした内容にした。ダメで元々である。でもこれは大成功で、俺は念願の特別奨学生となった。

 博学になれたとしたら それはただ 本に注いだ 奨学金さ

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