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忘れなかった音楽

 忘れられない音楽は普段耳にしなくてもふとした瞬間に口ずさむ。無意識に脳裏に残っている。こびりついていて、脳内ジュークボックスが状況に応じて選曲する。


 小学生の頃、夕方に放送されていた「丸出だめ夫」というアニメが好きだった。のび太をさらにやぼったくした「だめ夫」に発明家の父が作った家事のほかには特技もないロボットの「ボロット」が日常の小さな出来事、事件を解決していく。ドラえもんの二番煎じのようなアニメだったが、わかりやすさ、ゆるさが夕食前のけだるい時間にぴったりだったのだ。最終回は泣いて泣いて夕食が食べられなくなるくらい悲しかった。翌日、昨日のだめ夫の最終回のすばらしさを誰かに話したいと学校に行ったら、誰もだめ夫を見てなかった。存在すら知られていなくてショックだった。


 それから20年間。このだめ夫について同年代と語り合えることはなく、あれは私の幻だったのかとさえ思うようになった。そんなある日、ある人にだめ夫の話をしたら誕生日にだめ夫のDVD-BOXをくれた。思わぬ再会に、うきうき気分で帰宅し、その日の夜同窓会に行くような気分で正座して正座してDVDのプレイボタンを押す。期待値はマックスに上がっていた。

・・・・・エンドクレジットが消え、停止ボタンを押した。残ったのは懐かしさでも感動も悲しみもなく、戸惑いだった。  

「私は本当にだめ夫が好きだったのか?」

 話の整合性とか、だめ夫の声優の声が甘ったるいとか細かなことが気になってしまい、話に入っていけない。正直、なぜこの話に感動したのか、その当時の自分がわからなかった。あの感動はどこにいったの?過去がえぐられた気がした。

 その後、「だめ夫はどうだった?」と聞かれ、正直に「あのころのような感動がなかった」と話した。すると

年をとれば感じ方が変わるのは当然だよ。色々な見方、自分の今までの価値観とか含めて見るから。小さい頃みたいに純粋に物語に入っていくのは難しい」と言われた。
 

 音楽の話からそれてしまった。それからまたしばらくして、とてもとても悲しい出来事があった。田んぼや国道をひたすら自転車で走った。体がひきちぎられそうで、風も強くて、消えてしまいそうだったが、心は熱く、動かずにはいられなかった。そんな時に、だめ夫のエンディングテーマだったあの歌が頭の中で爆音で鳴った。体に収めきれない。イントロから歌う。
水前寺清子の「365歩のマーチ」だ。


「しぃあわせは~歩いてこないっ だぁから歩いていくんだねっ
 一日一歩 三日で三歩 さぁんぽ進んで二歩下がるぅ
 じ~んせいは ワンツーパンチ あっせかきべそかき歩こーよー
 あなたのつけた足あとにゃ 綺麗な花が咲くでしょう
 腕を 足を上げて ワンツーワンツー休まないで歩けぇ~
 それっ!!ワンツーワンツーワンツーワンツー!!!」

負けるもんか、こいでこいで幸せを手に入れるんだ。だめ夫は確かに自分の中に歌として残ってた。

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