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神様がくれたピンクの靴 佐藤和夫
「経営者が決断するときは、損か得かで決めてはいけません。正しいか、正しくないかを軸にして決めるのです」
著者の佐藤和夫さんは「人を大切にする経営学会」の常任理事をされています。
この会は、『人、とりわけ社員等の満足度や幸せこそ最大目標であり最大成果と考える「人を大切にする経営」を研究対象とし、その研究成果を広く社会に還元、啓蒙する活動を行うことを通じて、よりよい企業経営を行う企業が増加することを目的』としています。
この本は、一つの会社「徳武産業」の靴、とりわけ高齢者や障がい者を対象にしたケアシューズを製造して過程を紹介しています。
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靴のせいで歩けなくなってしまうお年寄り
徳武産業がケアシューズを作り始めたきっかけは1本の電話。
近くの特別養護老人ホームから「利用者の転倒が相次いで困っているんです。何とかお年寄りが転ばないですむ靴をつくってもらえないでしょうか?」
ちょうど大口の顧客から取引を縮小されて売上が減って困っていた平成5年のことでした。
連絡があった特別養護老人ホームに見学に行き、いろいろ試行錯誤をして試作品を作っても転倒は無くなりません。
施設に通ううちにいくつかの問題点が明らかになります。
★むくみやリウマチ、外反母趾により左右の足の大きさや形、長さまで異なっている人がたくさんいる。
★脳卒中などで身体にマヒがある人は、簡単に靴を履いたり脱いだりできない。
★足に合わない靴をかかとを踏んだり、詰め物を入れたりして無理に履いている。
➡ まだ歩ける人が靴のせいで歩けなくなってしまう
震災を無傷で生き残った奇跡の機械
元々、徳武産業はルームシューズを作る会社でした。
靴を作るために神戸から靴に詳しい助っ人を呼び寄せます。
・靴のサイズは1cmごとにする
・左右のサイズ違いや片方だけの販売をする
この2点は靴業界では異例の品でした。
助っ人の靴職人にも反対されますが、2年間500人のお年寄りにヒアリングや試作品を履いてもらった裏付けで説得し、ケアシューズ「あゆみ」を作りました。
大量生産のための機械が神戸から搬入されるのを待つだけとなります。
平成7年1月17日、阪神淡路大震災が起こりました。
高速道路が倒れ、神戸の街が燃えていました。
「あゆみ」の機械を特注した会社も神戸でした。
会社と連絡が取れず数日が経ったころ、機械メーカーから連絡が入ります。
機械は無事でした。
25年経った今も、使わなくなったこの機械の前に毎月欠かさず御神酒をまつって皆で感謝しています。
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人はいくつになってもおしゃれをしたいしステキな靴を履きたい、自分の足で歩きたい
初めに電話をくれた老人ホームの夏祭りに行った時のこと。
一人のおばあさんが「あゆみ」の靴を履いているのを見かけます。
十河さんが靴の履き心地を聞くと
「死ぬまでに赤い靴を履いてみたいと思っていた。この靴があって本当に嬉しい。毎日歩くことが生きがいになっている。いつもこの靴を枕元に置いて寝ている」とのこと。
施設の人に聞くと本当に枕元に靴を置いて寝ていると知ります。
この時、徳武産業は「あゆみ」の売上が思った様に伸びず、創業依頼初めて赤字転落することがわかり、経営をを託した社員を呼びつけ叱責し、この社員達は辞めてしまいました。
夏祭りの出来事であらためてこの靴は売れると確信し販路拡大に向けて動き出します。
しかし、大量生産をするなかでクレームも発生し、全品回収で対応など、知名度が上がるにつれて問題点も次々と出てきました。
しかし、徳武産業は社員が一丸となって問題点を一つひとつ丁寧に対応して売上を伸ばしていきます。
赤字転落したときの反省を活かし、社員のやりがいを支える仕組みを作り、家族が入社したがる会社へと変貌していきます。
徳武産業 公式サイト
![](https://assets.st-note.com/img/1650720214800-DDKnko2IdU.jpg?width=1200)
【感想】
「ニッチを狙う」
「情熱を持つ」
「貢献する」
ビジネス書によく書かれてある言葉ですが、そのどれもがあてはまるのがこの徳武産業です。
決して順風満帆な会社運営ではありませんが、社長の情熱と過去の反省を活かした経営で乗り切るところは、読んでいて池井戸潤の小説の様でした。
(嫌な銀行の幹部は出てきませんが…笑)
実は私が勤める特別養護老人ホームの利用者に「あゆみシューズ」を履いている方がいます。
この文章を書くために徳武産業さんのホームページを見ると、全く同じシューズの写真が載っていたのです。
この本が、徳武産業さんがより身近に感じました。
仕事でリーダーになっている人
今から起業しようとしている人
ノンフィクションが好きな人におススメです。
【目次】
プロローグ
第1章 「とんでもない考え」から生まれたこと
第2章 この靴を枕元に置いて寝ています
第3章 だからみんなキラキラできる
第4章 もっと「ありがとう」をいただきたい
第5章 誰もが幸せな会社をつくるために
発刊に寄せて
![](https://assets.st-note.com/img/1650720042708-ypIg3Oa5oo.jpg?width=1200)
あさ出版
208ページ
2019年1月26日第1刷発行
本体価格 1400円
電子書籍あり
著者 佐藤和夫
1952年北海道生まれ。
慶應義塾大学文学部卒業後、出版社勤務。
経営雑誌編集長、社団法人事務局長などを経て出版社設立。
2000社を超える企業取材を通して、
人間としての経営者と企業経営のあり方を洞察してきた。
現在「人を大切にする経営学会」常務理事。
一般社団法人「豊島いい会社づくり推進会」会長。
「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員。
株式会社あさ出版代表取締役。
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