カムバック・トゥ・ハリウッド

公開数ヶ月前から気になっていたこの映画。

何故ならTwitter等SNSで紹介されている粗筋が、モーガン・フリーマンに借金を返すために、ロバート・デ・ニーロが映画製作を装って、保険金目当てでトミー・リー・ジョーンズをいかでかして殺そうとする映画らしいからだ。

あまりのインパクトに桂文枝師匠のごときコケ方をして肩を強打したし(実話)、脳裏に過った言葉が「この映画の企画にゴーサインした映画関係者、頭大丈夫?」だった。

さて、いざ観賞。果たしてどんな映画なのだろうか?

時は1974年。明らかにカス映画しか製作・配給していないミラクル映画社社長にしてプロデューサーであるマックスは迫りくる死に怯えていた。何故なら、マックスは映画お宅なギャングのボスであるレジーに35万ドルを借りて『尼さんは殺し屋』なるセクシーバイオレンス映画を撮るも、公開するや否や、カソリックの神父と尼さんたちを激怒させて抗議運動起こされて大コケ。映画の評価も悲惨なものだからか借金は返せそうにない!借金を返さなければ、レジーとその子分たちから惨殺されるのは必至。さあ、どうするマックス!

あるのはずっと温め続けていた脚本くらい。その脚本を泣く泣くかつての助手で今や売れっ子プロデューサーのジミーに買い取ってもらい、なんとかすることに。忸怩たる思いでジミーによりその脚本の映画化の撮影現場に、ミラクル社唯一の社員である甥のウォルターとともに赴くマックス。しかし、主演俳優の転落死により撮影は中断。映画化は棚上げになりマックスはほくそ笑むも、主演俳優にかけた保険でジミーに大金が入り、マックスは阿鼻叫喚。ん?待てよ。事故に見せかけて俳優を殺せば一攫千金。借金も返せるのではと思ったマックスは、レジーを唆して金を借り、ボツにした脚本を映画化することに。主演俳優として選んだのはかつての西部劇のスター。今や老い、愛した女性への未練を引きずりながら老人ホームで余生を送るデューク。

監督も西部劇愛がやたら強い女性、メーガンに決めた。備えはできた。いざ、保険金殺人の幕開け!と思いきや、マックスがいかでかしてデュークを事故死させようとしてもデュークはしぶとく、なかなか死なない!このままでは映画が完成してしまう!さあ、どうする?といった内容。

正直、脚本はご都合主義がやや強めで、モーガン・フリーマン、ロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズという名優たちの力がなければ陳腐なものになっていたなというのが本音。しかし、今やNetflixにおされがちな銀幕の映画への愛とリスペクトが映画自体から溢れんばかりで、監督をはじめ、この映画に関わる人々の映画への真摯な気持ちはひしひしと伝わり、欠点を補って余りある程。

作中の、えげつない動機からスタートした奇跡のケミストリーには、映画館で観るからこそ楽しめる映画の醍醐味がぎゅっと詰まっている。ネット配信作品とコロナ禍のダブルパンチで青息吐息の映画業界だけれど、この映画を見ると映画がもたらす魔法や幸せを信じたくなるし、やはり映画館で映画を観たくなる。

全ての映画を愛する人に一度は観てもらいたい映画、それがこのカムバック・トゥ・ハリウッドである。

あと。暴れん坊なくせにトゥナイトショーを観るのが好きな聡明な馬、バタースコッチはこの映画の影の主役かと。もし各映画の賞に助演動物賞があったら彼はきっと総なめにしていたろうなという役者ぶり。馬が蛇蝎の如く嫌いな人でない限りバタースコッチの名演に魅了されるだろう。

それと、エンドロールは最後まで観るべし。あまりのしょうもなさに笑い転げるから。

(文責・コサイミキ)

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