ミス・フランスになりたいを観たんだ

普段は英語圏の映画ばかり観ていてフランス映画は数える程しか観ていませんが、この映画は予告の時点で魅せられたので昨年の春にこの映画を観に行きました。


昨今は多様性やジェンダーについて論議がされていますが多様性について比較的先鋭的なイメージがあるフランスで作られたこの映画、どんなものかなあと観賞しました。

主人公のアレックスは幼い頃にミスフランスになりたいと夢を語るも、男がミスフランスになれるわけないじゃんと笑われた過去を持つ。唯一、彼の夢を笑わなかった優しい両親は事故で他界。孤児となった彼はボクシングジムの雑用係としてしがない日々を送ります。

そんな彼のもとに転機が訪れました。

今やボクシングのチャンピオンという夢を叶えたかつての幼なじみ、エリアスと再会し、性別の問題から諦めて蓋をしたミスフランスになりたいという夢が再燃したこと、そして住んでるアパートの住人仲間で友達のドラァグクイーンのローラを行きずりの男に侮辱されたことに憤り、それをモチベーションとして無謀だと思われるミスフランスに性別と生い立ちを偽り、出場することに。予選である地区大会ではドラァグクイーンのカリスマ(演じるは、サルバドール・ダリの寵姫だったアマンダ・リア!)から高い金払って頂いたアドバイスどおりに見た目やアティテュードを研鑽し、さらにスピーチでローラが受けた侮辱を皮切りに辛辣に男によるセクハラモラハラを批判したスピーチかましてネットをバズらせて予選圧勝(笑)

しかし、本選に進出するも、途中、SNS擦れしてか天狗になり、擬似家族のように接し、アレックスをサポートしてくれたアパートの住人たちを負け犬扱いしていくアレックスには、ぶっちゃけ何様だよてめえとはしたなくもイラッときました。

そんな彼の鼻柱を砕いたのは、アレックスを見守ってくれていたミスフランス実行委員会のアマンダ。

「あなたは何者にすらなってない!」の言葉は正論だけれどきっつい。

うちひしがれたアレックスが自暴自棄になり、男にも女にもなれない中途半端な私なんて!と赤い口紅を塗り、捨て鉢な気持ちで体でも売ろうかと盛り場をうろついた時にローラがアレックスに言った老いたドラァグクイーンの悲哀もつらいです。

若いうちはそれなりに高く売れるけれど、年を経るたびに20パーセント値切られ、ローラは今は1回13ユーロ(1680円くらい!)だと自嘲混じりで話すくだりはこちらも悲しくなってきましたよ。

あと、きちんとローラに謝ったアレックスはいいこです。でも、プログラマーコンビや中東出身のお針子親子にも謝ろうねー。彼がSNSのきらびやかに翻弄されて傲慢になったものの、きちんと反省し、自分を見失わずに済んだことにほっとしました。

そして、ミスコン合宿で相部屋になった、ミスプロヴァンスのパカ。最初は互いを嫌いあい、さらにアレックスの挙動不審さからアレックスがドラッグをやっているとミスコン審査委員会にアレックスを蹴落とすべくチクろうとした嫌な女に見えた彼女が、アレックスの真実を知り、応援していくさまに目を細めたくなり、ミスコンを毛嫌いし毒づいてばかりだった大家のヨランダの悲しい過去や彼女がアレックスを密かに応援していたいじらさにもほろり。

と、同時にアレックスがミスコン優勝の夢のためとはいえ、女性の姿でいることで知る女の悲しさ、男らしさからかけ離れ、かといって女でもないアレックスの立ち位置の不安定さ、そしてそんな彼が突きつけられた男の下衆さの描写がかなりの辛口なのはフランスというお国柄なのでしょうか。

アレックスが親友であり、そして淡い恋慕を抱いていたであろう、エリアスが身重の奥さんのお腹を擦る幸せそうな光景を見て深く傷つくさま、さらに悪いことに女性の姿をしたアレックスを見た知り合いのボクサーが彼に欲情して言い寄り、それに動揺したアレックスがボクサーを突き飛ばすと、彼があしざまにアレックスを「頭がおかしい、病院行けよ」と罵るくだり。

個人的な話で恐縮ですが、私自身はフェミニズムについてはやや懐疑的だし、容姿に恵まれなかったこと故に幼少期~30代前半は不利益を被りましたが、今は比較的楽です。

しかし、そんな私でも20代の頃に声をかけられ、断るとプライドを傷つけられたのか「ブス、お前なんか相手にするかよ」だの「バカ!頭おかしいんじゃねえ?」と捨て台詞を吐かれました。アレックスを詰ったボクサーのくだりを見て弱い立場の人間には何してもいいと思う男はどこの国にもいるんだなと嘆息しました。

閑話休題。

そして、決勝進出するアレックス。しかし、テレビの生中継も入っている決勝戦で彼がスピーチでとった行動は……。

結末は、ジェンダーの隔たりを題材にしているからやはりこうきたか。正直な話、予測の範囲内かな、残念!と思っていたものの、ラストシーンのアレックスのまばゆいばかりの笑顔に救われたし、彼のこれからに幸あれと願うばかり。私自身も潰えた夢への気持ちが再燃し、諦めずに頑張ろうと思えた素敵な映画でした。そして、アレックスの部屋に飾られた色とりどりの愛らしい調度品や街を彩るキャンディカラーなネオンのキュートさに、さすが!フランスはお洒落な街だなと改めて思い、一度は行きたいなーと思ったのです。

(文責・コサイミキ)

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