オキナワンロックドリフターvol.71

さて。旅行の日程は決まった。そして入金も済ませた。後は上司に休みの申請を……。沖縄というとチクチク嫌みを言われそうなので、家族で新潟の親戚に会いに行くと嘘をつき、どうにか休みは承認された。これみよがしに「独身は呑気かねー」と言われたが……。
ということで楽天で会社用のフェイク土産を取り寄せ、いざ、沖縄へ。
バレンタインの前倒しで手土産はチョコレートを用意し、城間兄弟には、来沖初日に合わせて郵送した。
今回も、スカイマークエアラインのパックツアーで、飛行機はいつもより少し早い便にしたので昼前には那覇空港に到着する予定。1日目は京都観光ホテルに宿泊だ。
これで5度目の沖縄旅行だが、窓から見える鹿児島の灰色の海が沖縄の瑠璃色に変わる時はいつも胸が弾む。
そして、空港を出た時に体感する湿った空気も。
私は那覇空港を出ると直ぐ様さっちゃん、ムオリさん、イハさんに到着のメールをした。旅の最初の目的地は那覇は高良レコードへ。ムオリさんからメールや電話にて、10行というバンドがお勧めだから聴け!とミッションが下ったのだ。
10行は元六人組のボーカリスト、我部ミユキ(現・カリミ)さん、ギターの伊集タツヤさん、キーボードの松元靖さん、ベースの安田陽さん、ドラムの國場幸孝さんの5人編成のバンドだ。
沖縄に行く度に、世界で活躍していたかもしれないバンドと惜しまれた六人組。その音楽性を引き継ぐバンド、しかも古今東西の音楽問わずかなり辛辣な批評をするムオリさんが珍しく絶賛するバンド10行ということで私の期待は高まった。早速、2005年にリリースされたミニアルバムを買い、 封を開け、ウォークマンで聴きながらコザへ向かうバスに乗り込む。
1曲目の『暁』という曲は、聴くだけで周りの体感温度すら変わるような不思議かつ柔らかな曲だった。松元さんのピアノと伊集さんのギターの音色が冬に差し込む日射しのように暖かく、ミユキさんの、声変わり前の少年のボーイソプラノのような清廉な歌声が耳に優しく、そんな触れたら溶けてなくなりそうな繊細かつ儚い音を支えているのは國場さんのドラムと安田さんのベースである。
エキゾチックな中にもどこか懐かしさや親しみを覚える音がそこにあり、その余韻に浸るために『暁』を何度も何度も聴いた。
バスが国際通りを抜け、浦添に入ると2曲目の『君の華』に切り替える。『暁』が曲の温もりが毛細血管まで染み通るような曲ならば、『君の華』は歌詞がメロディーに乗り、心の柔らかな部分をきゅっと掴むようなそんな曲だ。無意識に涙こぼれ、私は照れ隠しのように『暁』と『君の華』を交互に聴いた。最後は安田さんのトリッキーなベースが印象的な『十字路』だ。
薄闇の中、出口の見えない迷路の中で右往左往しているような気分になるメロディーに、凛としたミユキさんのボーカルのマリアージュがクセになるそんな曲。私はコザに着くまで延々とこのミニアルバムを繰り返し聴いていた。
が、聴き惚れているうちにアナウンスを聞き逃し、中の町ではなく胡屋で降りるはめに。序盤から間の抜けたことしたなあと頭をかきながら、私は歩道橋の代わりにできたスクランブル交差点を走り、京都観光ホテルへ。
しかし……。1年とちょっとの間に、ホテルは陰気な雰囲気を醸し出していた。エレベーターはかすかに雑音がし、照明が心なしか薄暗く、スタッフの方の応対も覇気がなかった。
もしかしたら、来年はこのホテルはないかもしれないな。
そう思いながら、私はひんやりとしたシーツの心地よさを感じながら軽く横になった。30分だけ仮眠をしたらさっと一風呂浴びてプラザハウスへ。
午後16時にはプラザハウスで城間兄弟と待ち合わせだ。時計を見たら午後15時。
私はコザの街を見回しながらプラザハウスまで歩くことにした。
中の町のミュージックタウンは夏にオープンらしく、1年前のがらんどうが嘘のように、建物としての外観が形成されつつあった。しかし、ゲート通りにもちらほら空き店舗が目立ち、一番街に移転した立ち飲み屋のジャンクボックスは居心地悪そうな佇まいだった。
中の町添いからゲート通りに移転した“Good Times”もしかり、店の外観からして不本意なリニューアルがこぼれ匂っていた。
さらに、24時間喫茶のUFOがいつの間にか閉店していた。隣にあったレストラン国が閉店してからも頑張っていたUFOの店前に貼られた閉店のお知らせが色褪せていて寂しさを増幅させた。
プラザハウスに着く前に城間家に電話だ。電話には俊雄さんが出られた。
なんと、髭を剃ろうとしたら剃刀負けしたとのこと。大丈夫かとおたおたすると、俊雄さんは弛緩したような声で大丈夫よーと返された。その妙なハイテンションにちりりと軽い胸騒ぎを覚えた。しかし、約束は覚えているようで「16時にプラザハウスでねー。正男も連れていくから」とおっしゃってくださったことには安堵した。
プラザハウスに到着。私は急いでプラザハウス内にある雑貨屋でメッセージカード、ペン、そして色紙数枚を購入した。色紙は友人に頼まれたサインを城間兄弟にお願いするために、メッセージカードにフリオさんとウェインさん宛のメッセージを城間兄弟に書いて貰うために。
フリオさん、ウェインさん喜ぶといいなあと思いながら、私はかわいくもエキゾチックな絵のメッセージカードの封を開けた。
そして、3階へ上り、待ち合わせの場所であるプライムカフェへ。プライムカフェは手作りのケーキやスコーンが人気のカフェで残念ながら2008年の半ばに閉店したものの、2007年当時はかなりの盛況だった。
先にカフェラテをオーダーし、ひたすら城間兄弟を待った。待ち合わせの16時まであと10分。2人は本当に来るのだろうか?
不安と期待でそわそわし、挙動不審状態になっていると、メールがきた。
イハさんからだった。
「沖縄来てるんだねー。めんそーれー。ところで城間兄弟には会うの?」
私は「はい、そうですよ。今待ち合わせの最中」と返した。すると……。
「んじゃ、60分コースか。高くつくかもねー。延長はあり?なし?」と返された。
風俗かよ!とツッコミ入れそうになったが、イハさんなりに心配し、気遣ってくれているのがわかった。
午後16時5分。まだかまだかと店の外を見つめていると、小柄な男性が2人エスカレーターを降り、こちらに近づいてきた。
ひとりはカーキ色のベースボールキャップにパーカー、もうひとりは数歩離れて歩き、灰色のベースボールキャップとパーカーに身を包んでいた。
俊雄さんと正男さんだ!
私はすっくと立ち上がり、2人に一礼した。

(オキナワンロックドリフターvol.72へ続く……)
(文責・コサイミキ)

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