ナイルパーチの女子会、原作とドラマ版を見比べたんだ。


昨年の1月の終わりの出来事。
いつも通り『クイズ脳ベルShow』を録画予約しようと番組表を見ていたら、BSテレビ東京の欄を見て驚いた。柚木麻子の『ナイルパーチの女子会』がドラマ化されていたからだ。BSテレ東の公式サイトを見てキャストを確認すると、今までの柚木作品の実写化で一番原作をうまく料理していると確信して録画予約をした。以来、毎週録画予約し、録画が失敗していたらTverの見逃し配信で観るくらいはまったドラマ、それが『ナイルパーチの女子会』である。

内容は以下のとおり。

大手商社のキャリアウーマンの栄利子は多忙な毎日のささやかな楽しみとして『おひょうのダメ奥さん日記』という人気ブログを愛読していた。ある日、栄利子はふとしたことからおひょうこと翔子と出会い、交流を深めた。

翔子はスーパーの店長である夫と二人暮らしの専業主婦。のほほんとした雰囲気を持つが、内心はなにもしないのに高圧的かつ親が遺した財産を食い潰して生きている父親と、そんな父親に嫌気がさして家を出てしまった母親への鬱屈を抱えていた。

そして、栄利子も翔子も心許せる友達がいない。

そんなふたりは初めてできた女友達に最初ははしゃぎ嬉しくなるも、翔子が嫌々ながらも父親の様子を見に実家に行くことになり、しばらくブログを休んでいたことから心配した栄利子による翔子へのストーカー行為が始まっていき、やっとできた女友達から互いを喰らいあうような女ふたりと化してしまったという話。


今はTwitterを退会されたものの(追記・昨年末復活された模様)、作者の柚木麻子はこの小説を書いたきっかけを、Twitterにて「最近、女子会をやってわいわいしているとそれに対して周りのざらついた視線を感じる時がある」と呟かれた。

そこから「友達」とはなんだろうと突き詰めて書かれたという。

正直、私自身友達作りが壊滅的に下手である。高校1年の頃、全く友達ができず、友達を作らねばと躍起になり、栄利子のように友達ができない心の傷を拗らせたり、女の子たちが固まってわいわい騒ぐさまを見て、殺意に近い憎しみの眼差しを向けた過去があるので、学生時代に友達ができなくて心細さを感じた人間にはかなりグサグサ刺さる作品ではないだろうか。

そして、生真面目さが災いして他者を自分の価値観の鋳型に無理やり入れて張りぼての友情に固執する栄利子が獰猛なナイルパーチなら、翔子はさながら他者(男)に寄生して侵食していく人食いアメーバのようで、ベクトルは違えど似た者同士だなと寒気が。

と、同時に友達がいないということで引き摺っているコンプレックスや傷を解くのは、結局は自分自身だけなのだと改めて思い知らされる。

結末は纏めようと焦りすぎた感があり未消化さが残るが友達を作ろうという過去の呪縛から解放された栄利子と翔子が受けた代償の大きさに痛々しくなるし、それを踏まえて彼女たちが友達の多寡とかステータスとかで自分や他人をジャッジするのをやめて自分なりの人生をきちんと生きられたらと願いながら本を閉じた。

しかし、何度も書くが、この作品は読む者、特に学生時代、友達付き合いに躓いた人間にはかなり痛い。しばらくフラッシュバックに苛まれたくらいだ。

そして、ドラマ版はどうなっているかなと欠かさず観ているわけなのだが、さすがテレ東。裏切らない。

最初は水川あさみが栄利子かあ。うーむ。栄利子、美声のイメージがあるから微妙だなあと思っていたものの、今では「すみませんでしたああ!水川さまああ!」とジャンピング土下座したくなるくらい栄利子が水川あさみでよかったと思える。

生真面目さとまっすぐさ故の狂気と、学生時代のトラウマからか友達付き合いが高校生の友達付き合いのテンプレートからアップデートされておらず、ちょくちょく会って話そう、温泉行こうよ等無邪気に提案する栄利子の少女のまま時が止まり、壊れたような様子が表現されていて、水川あさみすげえと改めて思い知らされる。

翔子役の山田真歩は『花子とアン』を観て気になる女優さんだったので彼女が翔子役とわかった時には「あ、大丈夫だな」と安心したし、どんな翔子になるのか楽しみにした。果たして、さすが山田真歩。誂えたように自堕落なのに男ウケがいい翔子がテレビ画面の中にいた。

他キャストもいい俳優さんや女優さんを起用し、コロナ禍を逆手にとり、原作での栄利子のタンザニア出張をばっさりカットし、Web会議やリモート女子会シーンで人間関係の揺らぎや歪みを演出したり、セットに凝ることで栄利子と翔子のバックグラウンドの対比がわかるのも見事だなあと思う。

さらに、原作のありえないだろ!リアリティーに欠けてるし、作者ミサンドリーが過ぎるぞなシーンや無理があるシーンがきちんとドラマ版ではブラッシュアップされていたり、別の演出に置き換えられているのも拍手。過去の柚木麻子作品の実写版がBSプレミアムで放送された『ランチのアッコちゃん』以外悉く改悪されていて舌打ちしたからなおさらそう思う(特に『嘆きの美女』は酷かった。よくもまああんな改悪できたもんだ)。

今週末には最終回になるドラマ版『ナイルパーチの女子会』。原作準拠な結末になるのか?それとも?

いずれにせよ。テレ東だから大丈夫でしょと思っているけれど(笑)

追記・過日、大学時代の友達と『バッファロー'66』を観る前に食事をし、『ナイルパーチの女子会』について語り合った。彼女は栄利子が怖いけれど嫌いになれないと話し、それを皮切りに互いに友達付き合いや人間関係のしんどさを吐露しあった。

今でこそ大学時代の友達や高校時代に唯一できた友達や沖縄でできた友達や共通のジャンルにて仲良くなった人たちと交流が続いてことでだいぶ過去の古傷が癒えていると思っていたが、時折、以前カットアウトされたWeb友から「まいきーは肩肘はって話す癖があるね。そうしなきゃ立っていられないくらいつらいことだらけだったんだね、私はそれを克服する手伝いができなかったけど、いつかまいきーが肩肘張らずに話せる日がくるようになればいいね」と言われたことを思い出してしまったり、疲労がたまると起きるフラッシュバックは学生時代から数年前までの人間関係の拗れダイジェストだ。

やはりまだ引き摺っている。学生時代の呪いは未だ浄化の途上なのかもしれない。

ナイルパーチの女子会を観終わり、お茶をすすってため息をつくたびに思う。

そして、最終回。
栄利子が翔子の弱みを握り、偽りの友達関係を強要した挙げ句翔子に怯えられる様は同じだけれど、喧嘩別れするシーンは無理がないようにし、栄利子のお母さんが栄利子の態度に激昂して食事を部屋の壁にぶつけるシーンがないのはほっとした(ドラマ版の食事が丁寧に作られているからあれをぶちまけてほしくなかったので)。
派遣社員の真織の婚約者であり、栄利子の同期である杉下を栄利子が寝取ったのがわかり、真織が「社内の男たちと全員やれ」と、栄利子に無茶苦茶な恐喝するくだりは同じなものの、手始めにと栄利子が色仕掛けする上司の岸間に栄利子が叱咤されるくだりは原作ではかなりヒリヒリするくだりなのに、何故かドラマでは岸間がディフォルメされた意識高い系喋り(要はネットスラングでいうルー語)をするキャラクターなので妙にコミカルなシーンになっていて腹抱えて笑った。岸間役の飯田基祐さんに拍手。仮面ライダードライブの仁良課長に匹敵する嵌まり役だった。
閑話休題。
すったもんだの挙げ句、栄利子は職での地位と信頼を失い、翔子は気まぐれな不実からとはいえ夫の信頼を失い、別居することになるのは同じ。
けれど、ドラマでは僅かな救いがあり、別居し、東京以外の場所で働く翔子が旅立つ前に栄利子と一緒に栄利子宅でお茶を飲み、遠い未来の叶うかわからないけど少し希望に満ちた小さな約束をするくだりがあり、心和んだ。

できればDVDなり、Blu-rayなりリリースされて欲しいドラマ。テレビ東京様。どうかお願いします!


(文責・コサイミキ)



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