見出し画像

炭火焼肉M

福島にある焼肉屋さんです。松坂牛を炭火で炙って、ほとんど生焼けのまま自分で擦った生ワサビをつけ、それこそ刺身のように食べる、という店で、蕩けるように美味しいのですが、それだけにお値段は・・・というのがこの話のポイント。

今から30年前、僕が就職して間もない頃にできたのですが、職場で話題になって、ノリで同僚の女性二人と連れ立って行くことになったのが最初。2人のうち、1人は年上、もう1人は専門学校からの就職で僕よりも年下。しこたま飲み食いした後のお会計、年下の子は別として、当然目上の2人で割り勘と思いきや、いざレジまで来た瞬間、いきなり年上の方から「ご馳走様でした!」と頭を下げられ、呆然・・・・その頃、僕はまだクレジットカードなるものを持っていなかったはずで、一体どうやって払ったのか。多分、財布は空っぽになったんでしょう、そそくさとその場から逃げ帰った記憶があります。

身の丈に合わないことはするもんじゃない、と身に染みて思ったものでした。

時は過ぎて、息子ができ、その息子が大阪の私立中学に進学。嬉しくて、彼を連れて行ったのが2回目。まあ、お祝いですよね。彼はとっても喜んでくれて、その頃は僕も懐が温かく、特に取り立ててどうということではなかったのですが・・・ところが、この店、JR福島駅からすぐの所にある、というのが第二のポイント。

それから2年後、すっかりコンサートゴーアーになった僕は、たまには息子と一緒に行こうと、彼を誘います。ちょうど二人の都合の良い金曜日に、大山平一郎指揮の大阪交響楽団で「幻想」がある。大阪交響楽団の定期だし、当日券で大丈夫だよと、シンフォニーホール(福島が最寄駅)で待ち合わせることに。

ところが、今からは想像もできないことですが、窓口に行くとなんと完売!大山さんの人気のなせる技だったようですが、まさかまさかの展開に、ただ呆然。

「ごめんねえ」のcメールを送ると、学校帰りの息子からは「いいよ、飯食って帰ろう」の返事。「わかった、いまどこ?」「福島駅に着いた」「そっちに向かって歩くね」「もう店に入った」「なんて店?」・・・すると、息子からの返事は、一言、

「M」

・・・・ずるっ。

その日の息子の楽しみようと言ったら無かったですねえ。コンサートに行くよりもはるかに高くついたお父さんは、少々複雑ではありましたが・・・・しかし、制服を着た中学生が、よくまあ一人で入れたもんです。これが、3回目。

そんな彼も、2年前に結婚。先日彼が実家に遊びに来た時、ふとこの思い出話になりました。家族みんな大笑い。すると、やっぱりノリで、彼が娘に向かって言います。「そういえば、あなた、行ってないよねえ」「うん!」・・・・・

・・・・ここで、4度目の来訪を自ら計画してしまう私も、馬鹿といえば馬鹿であります。まあ、まだこの店が残っていることが嬉しかった、というのもあったかもしれません。大阪の個性的で美味しい店が、一つでも生き残ってくれることが、僕の願いですから。

実は、今日行ってきました。わさびと醤油で食べる霜降りのロースは健在。それを食した時の彼の言葉は・・・・

「ああ、思い出した、思い出した、これだよ!これだよ! 懐かしい!懐かしい!」・・・・・

それだけで今日はお腹いっぱいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?