Gustatolasse

グスタトラッセ文庫

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最近の記事

ぼくは、ひとり

 ほんとうの家族を失って、でも、やがてぼくには仲間ができた。それは与えられたものだったけど、ぼくが掴み取ったものでもあって、それがぼくの家族になったんだ。  ぼくは、ぼくの大事なものを守ろうとした。でも、時という大きな力には逆えず、流されていく。ぼくは、こんなにも、無力だったんだ。  人生がいくつもの岐路を経て、今という場所につながっているならば、ぼくたちは、今も共にいるという道を、選び続けることができなかったんだろう。ひとつ、道を間違えば、ひとつ、離れていく。やがて、積

    • 拾う神

       新しい年になったからって、事態がリセットされるわけじゃない。  と、透(とお)は思った。昨年から引きずっているトラブル処理に追われている。ゆえに年明けから、かなりヘビーな残業が続いている。  誰だ、今まで書類を適当に処理してきた奴は。ああ、時間がない。誰だ、成人の日を休日にした奴は。正月終わったばっかだし、該当者以外は普通に稼働すればいーじゃん。  いや、いっそ正月を全休みにする必要ってあんのか? ゆるーく稼働すればいーじゃんね。なんなら出社は希望制でもいい。社食で雑煮。お

      • タノシイ恋愛

         わたしはわたしが嫌いだ。だから誰かに恋なんてしない。誰かがどんなにわたしを好きでも、わたしがどんなに誰かを好きでも、そんなことはどうだっていい。わたし自身が嫌いだから、わたしはわたしに恋なんてさせない。  この世に生まれ落ちて、気がついたら、わたしはわたしが大嫌いだった。訳なんか知らない。わたしの体が嫌いだ。わたしの顔が嫌いだ。わたしはわたしのすべてが嫌いだ。  父に初めてあったとき、わたしを見て父はおまえは醜いねと言った。母と初めて話したとき、わたしを聞いて母はおまえは険

        • 真実に近い嘘

           ある晴れた午後に、一通の手紙が舞い込んだ。差出人は女子校時代の同級生で、卒業してから七年近く、連絡を取ったこともない。でも、明るい空色の封筒を見て、なぜだかすぐに彼女だとわかった。  何だろうと思った。今頃何の手紙なのかと。ドキドキした。少し不安だった。思い当たる節のない手紙は、いつでもそんなものだけど、特別それが強いと感じた。むずがゆい。照れ臭い。高校時代に戻ったような、そんな気持ちで手紙を開けた。  きちんと折られた真っ白い便箋を開くと、懐かしい几帳面な文字が目に飛び込

        ぼくは、ひとり