タノシイ恋愛
わたしはわたしが嫌いだ。だから誰かに恋なんてしない。誰かがどんなにわたしを好きでも、わたしがどんなに誰かを好きでも、そんなことはどうだっていい。わたし自身が嫌いだから、わたしはわたしに恋なんてさせない。
この世に生まれ落ちて、気がついたら、わたしはわたしが大嫌いだった。訳なんか知らない。わたしの体が嫌いだ。わたしの顔が嫌いだ。わたしはわたしのすべてが嫌いだ。
父に初めてあったとき、わたしを見て父はおまえは醜いねと言った。母と初めて話したとき、わたしを聞いて母はおまえは険しいねと言った。そんなものかとわたしは思う。以来、両親はわたしを避ける。それを何とも思わない。そういうふうにわたしは育った。
あなたはあなたが好きだ。だから誰にもあなたを好きになんてさせない。あなたがどんなに誰かを好きでも、返ってくる思いなんて必要じゃない。あなた自身が好きだから、あなた以外にあなたを好きなる人などいらない。
気づいた時には誰からも愛されていたあなたは、いつからかあなただけが好きで、だから誰かがあなたを好きになることが許せなくなった。でも、あなたは誰かを好きになる。誰にもあなたを愛させないが、あなたは誰かを好きになる。
しかし、あなたが好きになった誰かが、あなたを好きになったとたん、あなたはその誰かが嫌いになる。あなたはあなたを好きになる誰もが嫌いだ。あなたはあなたを好かない誰かが好きだ。そんなものだとあなたは思う。あなたはあなたが好きだから、誰かの愛なんか必要じゃない。そういうふうにあなたは生きてきた。
わたしはわたしが嫌いで、誰がわたしを思おうと知ったことじゃない。わたしが誰かをどう思おうと知ったことじゃない。わたしはわたしに恋をさせない。もし誰かが勝手にわたしを好きでも、思いが終わろうが消えようが、それは誰かの感情で、わたしには何も関係がない。
あなたはあなたが好きで、誰に思われなくても、あなたは平気。むしろ誰かに好かれてしまえば煩わしい、それはあなたの感情じゃない。でもあなたは誰かを好きになりたい。できればこっそり好きになりたい。あなたが誰かを好きになっても、思いが返ってこなければ、それはあなた一人の感情ですむ。
一方的に、わたしを好きになればいい。わたしはわたしに恋をさせない。誰かがわたしをどう思おうと、誰かの勝手な思いなら、わたしにはちっとも関係がない。(問。わたしが嫌いなわたしは本当はわたしが好きなのか?)
一方的に、誰かを好きでいればいい。あなたは誰にもあなたを好きにはさせない。あなた一人の思いなら、それがどうなってもあなたひとりの問題で、誰にもまったく関係がない。(問。あなたが好きなあなたは本当はあなたが嫌いなのか? 真実は不可解だ)
そんなわたしたちが、出会ってしまった。神の悪戯。運命の演出。火花が散り、愛が芽生える。わたしはわたしを認めていない、あなたはあなたを信じていない。わたしたちは臆病だ。そんなわたしたちが、出会ってしまった。
わたしは笑う、あなたは笑う。
わたしはわたしが嫌いだから、わたしはわたし自身に恋なんてさせない。
あなたはあなたが好きだから、あなたは誰にもあなたを好きになんてさせない。それでも、わたしが嫌いなわたしと、あなたが好きなあなたとが、一緒にいれば恋になる。わたしはわたしに恋をさせない。あなたはあなたを好きにさせない。でも、わたしはあなたに恋をさせ、あなたはわたしを好きになる。わたしはあなたを好きにはならない。あなたはわたしの恋がいらない。
だから、わたしとあなたは上手くいく。だから、わたしとあなたの恋愛はタノシイ。
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