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自分の頭で考えるお金の話 その1~「インフレーション」を考える

「自分の頭で考えるお金の話」は、まずは、読者の方々に想像してもらうことから始めたいと思います。近未来の日常の風景だと考えてください。


† 近未来の買い物風景

あなたが買い物をしようと思って、店に入ったとします。スーパーマーケットか、コンビニを思い描いていただいていいでしょう。商品が陳列してあって、買い物カゴに自分で商品を入れ、レジへ運んでいく。レジは、近未来ということなのでセルフレジとしたいところですが、話をわかりやすくするために従来のレジ係がいる形ということにしておきましょう。

近未来の商店の風景は今とほとんど変わりませんが、ひとつだけ、違っているところがあります。価格の表示が紙に印刷されたもの、あるいは手書きのものはひとつも見当たらなくて、すべて小さな液晶画面に表示されています。

さて、あなたは必要なもの欲しい商品を買い物カゴに入れ終えて、レジへと向かいます。レジ係が商品に付けられているバーコードを一つずつチェックしていく。レジの機械にはチェックされた商品の合計金額が表示されていきます。

すべての商品のチェックを終え、いざお金を支払おうとしたときに、レジ係があなたに声を掛けてきました。

「あ、すみません。たったいま○○さんが××したので、お会計は合計でちょうど1万円だったんですけど、1万と100円になりました。」

つい先ほどまで1万円だったものが、誰かが××したがために、値段が100円上がってしまった。もしこんな事態に出くわしたとしたら、値上げの原因となる「××」をした「○○」に対して、あなたは不快感を覚えるに違いありません。

物価が1万円から1万100円へ、率にして1%の上昇。物価上昇はインフレーションという経済現象にともなって起きるものです。ただ現代では、レジの最中に価格が変動するなどということは起こらない。


ぼくがこのような想像をしていただきたいと思う理由は、読者の方々に快感・不快感を感じてもらいたかったからです。私たちの普段の日常では、上のような極端な現象は起こりません。けれど、極端ではないにせよ、起きてはいる。

ぼくたちの社会で起きるインフレーションはもっと緩慢に進行するものだし、その原因も明らかにされないので、快感も不快感も感じようがないだけのこと。

ですが、インフレーションの動きを素早いものにし、どこかに原因があると想定して想像すると、不満が生まれてきます。「自分の頭で考える」というのは、原因や推移を際立たせて、快感や不快感あるいは安心や不満を敢えて感じてみるということです。


上で想像してもらった近未来と現代の違いは、ただ一つ。情報の伝達速度が近未来では格段に速くなっていて、金融の動きが物価に即座に反映される仕組みになっているという想定です。だから、商品の価格表示が紙ではなくて液晶画面になっている。刻々と商品価格が変化していくので、紙にいちいち書いていたのではコストがかかりすぎてしまいます。


株式市場

近未来の想像のような、情報伝達速度が極大の場は現代には存在しないのか? 存在します。株式市場がその典型例です。証券取引所における株の売買では、時々刻々、株の価格が変動しています。

試しにGoogleで「東証 株価」を検索すると、下のようなグラフが出てきます。

東証株価指数の時間推移です。
「東証株価指数」とは、

東京証券取引所第一部上場株式銘柄を対象として、同取引所が1秒毎に、算出・公表している株価指数。(Wikipedia

証券取引所では、売買している商品の性質から1秒というごく短い時間毎に細かく価格が算出されます。対して、ぼくたちの日常を支えている経済活動では、株式市場ほど細かい時間毎の価格算出は必要がないどころか、かえって害悪ですらある。

このことも「自分の頭で」考えてみれば諒解できます。不安定な価格は商品を売ろうとする者にも買おうとする物にも不安を与えることになります。


株式市場では、一般の市場とは比較にならないほど情報の伝達速度が速い。その性質は株という商品の性質から要請されるものです。この性質は株を売買しようとする者に不安を与えます。つまり、リスクです。

株を売買しようとする者は、リスクは承知の上で、株取引に参入します。長期的な投資にせよ、目先の利潤を求める投機にせよ、リスクを負わなければならないのは、株取引の常識です。

一方、一般の商品売買では常識が異なります。リスクはできるだけ小さく、安定した取引が求められる。ゆえに細かな価格算出は要請されないし、要請されない以上は上の近未来の想像のような事態が出現する可能性は低いといえます。たとえ技術的には可能であったとしても。

しかし、だからといって、不安がないわけではありません。株取引は不安の要素を敢えて可視化するように、情報の伝達速度が最大になるようにシステムが組まれています。一般の商品取引は、逆に、不安を可視化しないようにシステムが組まれているといっていい。

可視化しないということは、不安がないということを意味しません。ただ、見たくないから見ない、というだけに過ぎません。


† とりあえずのまとめ

情報の伝達速度は速ければ速い方がいいというのが、一般的な常識です。情報が即座に完全に行き渡る状態は、経済学が理想の状態として想定するものでもある。しかし、「自分の頭で」考えてみるならば、その理想は必ずしも心地よいものではないと想像されます。

こうした若干不愉快な想像を通じて「自分の頭」で考えてみたいのは、可視化されることがなく、ゆえに見過ごされてしまいがちな不安・リスクが、いったいぼくたちの日常の経済活動にどのような影響を与えているか、です。

その入口として、まず理想的な情報伝達におけるインフレーションを想像してみました。

これは入口に過ぎません。まだ「○○」が「××」するということ、つまりインフレーションの原因については触れてはいません。

次回は、インフレーションの原因と、インフレーションがもたらす影響を考えてみたいと思います。もちろん、「自分の頭で」です。



その2~「自分の頭で」考える
その3~インフレーションの原因を考える

感じるままに。