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自分の頭で考えるお金の話 その3~インフレーションの原因を考える

『その1』を投稿してから日が開いてしまいました。

† 2018年7月18日の東証株価指数

グラフは今日の東京株価指数の推移です。

前日の終値が 1,745.05、本日の終値は1,751.21で+6.16(0.35%)の上昇です(なぜか計算が合いませんが、細かいところはスルーします)。

株価が今日一日で0.35%上昇した。すなわち、株式市場のなかではインフレーションが起きたわけです。

では、株価上昇の原因は何か?


答えには2つあります。

1つは「投資家の心理」といったようなやつで、株価上昇の原因というとまずこちらが言われます。心理なんて、根拠は曖昧ですが。

2つめは、曖昧ではなくキッチリと計測できる原因。株価市場に株価を上昇させるだけのお金が流れ込んだ。東証の資料を見ると、たとえば東証一部では2,167,061百万円の売買があったと出ています。

この数字は「売買」ですから、「売り」も「買い」も、つまりプラスマイナス含めた数字でしょう。株価は上昇していますから買い越しであったと推測できますが、買い越し高がいくらなのかは、ネットででてくる資料ではわかりません。

株式市場に流れ込んだお金の出所は「貨幣経済」と言えばいいでしょう。

株価上昇の原因の2つめの言い方は、

 貨幣経済からお金が株式市場へ流れ込んだ

というもの。つまり、どこかからお金が流れ込むとインフレーションがおきるということです。


† 実体経済と金融経済

ところで、貨幣経済には2つの「場」があります。実体経済と金融経済です。

この2つは何が違うのかいうと、お金と取引するモノが違います。

株式市場では、株とお金とが取引されています。
同様に実体経済は、モノやサービスとお金を取引する「場」。
金融経済は、お金同士を取引する「場」です。
株式はお金の類似品(証券)といっていいでしょうから、株式市場はどちらかというと金融経済の一部と言えます。

実体経済へは金融経済からお金が出入りします。貨幣経済から株式市場への「入口」に証券取引所があるように、金融経済から実体経済の「入口」には市中銀行が存在します。市中銀行は中央銀行からお金の供給を受けて、実体経済の「資金需要」に応じて実体経済へお金を流し込む。

株式市場のなかでは株式とお金の取引が行われているのと同じように、実体経済のなかではモノ・サービスとお金の取引が行われています。また、株式市場にお金が流れ込むと株価が上昇するのと同じように、実体経済でも金融経済から銀行経由でお金が流れ込むと、モノやサービスの価格が上昇する。この「物価上昇」がインフレーションです。


株式市場にせよ、実体経済にせよ、お金と取引される対象の価格が上昇する理由は同じです。心理的な理由でいうならば、株式市場なら「投資家の心理」だし、実体経済なら「消費者の購買意欲」。お金の側の理由でいうならば、株式市場および実体経済にお金が流れ込む。

ただし、株式市場と実体経済にはひとつ大きな違いがあって、それが情報伝達速度の差です。株式市場では売買の情報は直ちに市場全体に伝達されて瞬時(1秒)で株価に反映される。一方の実体経済では、情報の伝達速度はずっと緩慢です。


† 実体経済で情報伝達が速くなり、情報公開が行き届くと?

実体経済において、株式市場と同様に情報伝達速度が速くなるとどうなるか? そこを想像してみたのが、『その1』冒頭の「近未来の買い物風景」です。

情報伝達速度が速くなってしまうと、あなたが買い物をしようとした瞬間に、「○○さんが××した」おかげで商品の値段が上がってしまうようなことが起きる。


もうひとつの疑問は、この「○○さんが××した」の中身です。

ここも株式市場から類推してみます。

たとえば、AさんがB社の株式を購入しようとしたとする。Aさんが購入しようとしたときの株価は、仮に1株1000円だったとしましょう。また、同じころにCさんもB社の株を購入しようと考えていて、Cさんの方がアクションが速かったとします。CさんがAさんに先んじてB社株を購入したために、それまで1000円だったものがAさんが買おうとした瞬間には1050円になってしまった...。

もちろん、現在の株式市場でも、個人が(○○さんが)株を売買したというプライベートな情報までは入手は難しい。取引窓口の証券会社までならわかるのかもしれません(といっても、一般人には調べられないでしょうが)。

架空の近未来では、一般の商店のレジにまで売買の個別情報も伝わるという設定です。物価が上がるというのは、「どこから」「どういった形で」お金が実体経済に流れ込んだということですが、この「どこから」「どういった形で」がわかってしまうという設定で具体的に想像をしてみる。

「どこから」は、何れかの市中銀行からということになるでしょう。その形は、資金需要に応えてということですから、「どういった形で」は、資金需要の具体的なところということになります。たとえば、パンを生産しているY社が増産の設備投資のためにZ銀行から融資を受けた、とか。

それが融資であれ、自身の口座に貯蓄してあるお金を引き出すのであれ、銀行から実体経済にお金が流れ込んだ瞬間に、情報伝達速度が株式市場並に速ければ、お金が流れ込んだ先の商品(たとえば商品P)の値が変化し、商品Pの値の変化は商品Pを原材料として使っている商品Qの価格に直ちに変化を及ぼし....、という具合で、レジで商品を購入しようとした瞬間にも値段が変化してしまうことになります。


「ただちにインフレ」はどんな気分?

こうした変化は、これまた株式市場と同じように、値段の上がる方向にも下がる方向にも変化する。インフレ傾向だと物価が上がる方向へ変化していく度合いが大きいということになります。

想像のような高度情報化社会では、敏感に変化するのは労働者の賃金も同じでしょう。働いている最中にも刻々と賃金が変化し、「時給」ならぬ「秒給」で給料が計算されていくことになります。

消費者は同時に労働者であり、モノ・サービス(労働力)の売買のどちらにおいても秒ごとに価格が変化するのであるなら、それは平等だということができるでしょう。

それでも、一個人が労働(生産)と消費を同時に行うことはできません。買い物をするときには、労働の成果であるところのお金を使うわけですが、そのお金の価値が目の前で変わってしまうのは、あまり気分が良くないというか、安心できるものではないでしょう。

また、「○○さんが××した」の中身も、特に知らせてもらわない方がいいかもしれない。Y社が設備投資をしようとしたがために、目の前の商品の値段が上がるなんてことを知ってしまうと、どうしてもY社に好ましからざる感情を抱いてしまうのが人間というものでしょうから。

Y社の設備投資は、マクロでみれば自分たちの暮らしを豊かにするのだと頭では理解できたとしても、感情的に納得するのは、少なくとも現代人の感覚では難しい。

もっとも、近未来人はそんなようなことにも慣れてしまうでしょう。が、そこまで考えしまうと、かえって意味がありません。現代人の感覚のままで、近未来を体験したらという「想定」なので。


いずれにしても、お金に信用を見出し安心を求める現在人の感覚からすれば、日々の実体経済の動きが株式市場並に速くなってしまうことは、かえって好ましからざることに感じます。

では、信用ができて安心ができさえすれば、それでいいのか? 信用と安心の影で見落としていることはないのか? 次回は、この「見落とし」に斬り込んでいきたいと思います。


『その4』へ続く

感じるままに。