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醒めた人間がカッコいいのは一部のフィクションの中だけ

大人たる者、自分の機嫌をとるのは自分の責任だ。
疫病のせいで、ここ数年、新しいことにチャレンジするために外へ出て行くのを自分に禁止してきた。それによる自分の視野の狭窄と日常的なテンションの低下を、いやというほど自覚している。

最近、何事も「面白いと思えない」「完全には熱狂しきれない」のは、そういう現状のせいもあるのだろう。

困るのは、その「面白いと思えない」病が、自分の創作に対しても発動してしまうことだ。

思いついたアイディア、構築しているプロット。
頭の中で(あるいは紙上で)検討し、こねくり回しているうち……全然面白いと思えなくなってくる。そうなったら、おしまいだ。そのアイディア/プロットは捨てるしかない。

それらを面白いと思えないのは気のせいなのか、それとも実際に大したアイディア/プロットではないせいなのか。それは自分ではわからない。
しかし、シロートの創作はわりと、思い込みでイケてしまうところがある。
流行はやりや売れ線じゃなくても、客観的に見て完成度が低く消費者へのアピールポイントに乏しくても、「俺はこれがめっちゃ面白いと思ってるんだ!!!」という勢いと熱だけで書き殴り、その勢いと熱が作品を輝かせ、唯一無二のものが生まれたりもする。素人なんだからそれでいいし、賞はとれないかもしれないが、自分が満足できる作品を生み出せることもある。

一番ダメなのは、自分が醒めてしまうことだ。

僧侶の話(来月刊行予定)も、プロットを何種類も書いたのに、どれも面白いと思えなくて没にした。そのせいで、作品を完成させるのに、無駄に長い時間がかかってしまった。

11月末しめきりのカクヨムの企画。私はネタを二つ持っている。そのうちの一つは、私が心から信頼している腕利きの書き手さんから「アンタのこういうのを読んでみたい」と言われたものだし、もう一つはいつか書こうと長年あたためてきたものだ。
けれども、しめきり間近の今になって……これらのネタのどこが面白いのかわからなくなってしまった。

「どこが面白いのかわからない」というのは言い換えると「つまらないと思う」という意味だ。そんなもので勝負できるはずがない。

丁寧に磨き上げれば「それなりの形」にはできるかもしれない。けれども、それをやるには時間も気力も足りない。なんといっても、しめきりは明日だ。デッドライン間際のやっつけ仕事で、大手出版社からのプロデビューをめざして推敲と精緻化を重ねまくり万全の自信作を投入しているライバルたちに、勝てる目などあるはずもない。
(たとえ楽観的な思い込みでも)「勝負になる」と思えない限り、今回の企画には参入すべきではないのだ。
というのは、これは執筆前の作品のネタを全世界にさらす企画だ。誰かがパクってくれるほど大したネタでもないだろうが、それでも、うかつに扱いたくはない。
今回の企画に万全の態勢で臨めないのなら、そのネタを作品に昇華させてカクヨムコンに投入すべきなのだ。

といってもなぁ。カクヨムコンの受付開始は明後日だ。まだプロットも固まっていないのに、2か月でハイクオリティな10万字なんか書けるのか?
途中で「面白いと思えない」病が発動したりしたら、目も当てられない。

たぶん基礎体力が落ちている。物理的な意味だけじゃなく、人生においても、創作においても。
体力もないくせに、承認欲求の導きのままに、あれこれ賞に手を出しても、結果なんかついてくるはずもない。

私が今年完結できた完全新作は2作品だけだ(どちらも電書で出る)。
今年は賞にいくつも応募したが、どれも旧作か、旧作に手を加えたものだ。
新作をもりもり書けるようにならなくちゃならない。数を打てるようになって初めて、クオリティを追求する段階へ進める。

今は自分でも、賞を狙えるような「本気の小説」を、自分の中からひねり出せる自信がないのだ。
醒めてしまって「どうしてもこれが書きたい」「書きたくて書きたくてたまらない」と熱い思いを持てるものがない。ネタだってプロットだって、いくつも手元に遊ばせているのだが。

ただ、「何か書きたい」気持ちはある。すごくある。文章はすらすらと自分の中から出てくる。
心が空っぽなだけだ。(ホントにそれが大問題)

長年小説を書いているのに、プロットも感覚と雰囲気だけで作っていて、正直「起承転結」も「序破急」も意識したことがない。緩急もあまり考えていない。全部、ふわっと感覚だけで書いている。
(伏線とミスリードにだけは尋常ならざるこだわりがあるのですがね)

一度、セオリーのみで小説を組み立ててみたらどうなるだろう。いわゆる「習作」というやつだ。
『SAVE THE CATの法則』に書いてあるとおりに試しにやってみる、とか。
クオリティや面白さ度外視で、そういう習作を何作か完成させられたら、次に自分が魂込められる作品を書くときの力になるのかもしれない。



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