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愛妻家(?)はモテ男

先日、仕事から帰ってきた彼が難しい顔をしていた。
何があったのか訊ねると暫く言葉を選びながら少しずつ話し始めた。

「新入社員の子に告白されたんだよね」
あーわかるわかる、そりゃこんな職場の先輩いたら惚れるよね、私なら確実に惚れてるもの。ビジュアルも中身も素敵だものね。新入社員の子、見る目あるねぇ…なんて思っていた。

えらく呑気に構えてると思われるかもしれないけれど、慣れからくる余裕(?)だ。こういう事は初めてじゃないのだ。
そこで彼がその相手を気に入ってしまったらどうしようだとかは多少考えはするけれど。でもまあその時はその時。私に魅力が無かっただけなのだ。勿論、そんな終わりが来ない事を心から願っているけれど。

そして何故彼がこんなに難しい顔で悩んでいるのか訊ねると、「告白されるのはまあ有難い事だと思うんだけどさ、毎回返事するのに困るんだよね」と。そうだ、この人は根本的に優しい人なのだ。ただ普通に「彼女いるから」みたいな一言だけスパンと言える人じゃない。
仮にも彼女のような妻のような存在がある事を知った上で彼に想いを伝えるという事は、余程の覚悟と想いがあるのだろうと思い、そんな相手に一言でバッサリ切るのはあまりに申し訳ないと考える人なのだ。

そこで、相手を如何に傷付けることなく(とはいえ多少は傷付くだろうけど)、それでいてハッキリと断るにはどうすればいいのか彼の模索が始まる。その模索に私が関わることは無い。ただひたすらそっとしておく。
暫くの間、ああでもないこうでもないと呟きながら彼は言葉を探し続ける。

そして次の日には、清々しい顔をして仕事から帰ってくるのだ。結局どういう返事をしているのかは、今まで1度も聞いたことがない。ただ、彼の清々しい顔とその後の相手との関係の良好さを聞く限り、わざわざ私から返事の文言について聞かなくとも、彼は最善な返事の言葉を紡いだのだろうなと思える。

よく"職場一の愛妻家"とか"理想の夫婦"と言われるんだ、と嬉しそうに話してくれる彼が、普段どのように私の事を話してくれているのかはわからないけれど、とても良いように言ってくれていると思う。それに見合う人間になれているかどうかは些か不安ではあるけれど。
優しさと気遣いと滲み出る愛妻家感(?)がきっと沢山の女性を魅了するのだろう。こんな彼氏なら、旦那様ならいいなという理想像そのものだと思う。

本人にあまり自覚は無さそうなのだけれども、そういうとこなんだぞ、貴方がモテるのは。