記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

そういえば自分、リュック・ベッソン好きだったわ。 映画「DOGMAN ドッグマン」感想。※ネタバレあり

いろんな感情が渦巻いて、最終的に最高の映画体験だった。

思えば最後にリュック・ベッソンの映画を見たのはいつだっただろう。と思ってWikipediaと昔の映画鑑賞ログを照らし合わせたら、「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」を2020年に観てるらしい。そうか、あれもリュック・ベッソンだったのか。意識してなかったけど、ぼんやり面白かった記憶。

でも自分の中の"リュック・ベッソンらしさ"は本作「DOGMAN」のほうが強い。青春時代に観た自分の映画の原体験として「レオン」が衝撃的だったからだと思う。暴力的だったり不穏な空気感、そして切なくなる愛の話は脳内で勝手にレオンと結びつけてしまう。

「フィフス・エレメント」も「グラン・ブルー」ももちろん大好き。でも人生の映画3本を選ぶなら「レオン」はその一つにはいる。そして「DOGMAN」は3本までは入らないものの、かなり自分ランキングの上位ランキングに入る映画だった。

主人公のダグラスの境遇、変化と成長、愛と絆、そして胸の締め付けられるラストシーン。最高だった。「これぞ映画を観た」って感じがした。

※以降ネタバレを含みますのでご注意ください。


冒頭の一瞬で世界に引き込まれた

完全に冒頭から引き込まれた。
まず、女装した男が怪我でボロボロになりながら、トラック運転して荷台に犬がわんさかいるっていう状況の情報量が多すぎる
もうなんでこんな状況が生まれたのかが気になってしょうがない。

その後の拘置所で、主人公のダグラスと拘置所に呼ばれた精神科医のデッカーとの対話で物語が進む。基本的にはデッカーがダグラスへ質問し、少し含みをもたせたような、婉曲な言い回しでダグラスが回答する。

その流れで回想シーンに入るが、現実と回想シーンの間に別の時間の回想も入ったりして、時系列がちょっとだけ入り乱れる。でも特にそれが混乱を招くこともなく、スっと頭の中で時系列が組み立てられる。

パンフレットによると、ダグラスがある時から犬の檻に入れられて育てられたっていう部分だけ現実にあった事件を元にしているらしい。しかも似たような事件が3件もあったと。衝撃的。
(こういう情報ってやっぱパンフとかインタビューとか読まないと分からないよね。)

監督のリアリティへのこだわり

「フィクションだと分かっていても、人々は映画から何らかの真理を得ようとする。私の役割は、実在感のあるキャラクターを生みだすことだった。そうすれば、ダグラスが普通ではない人物だとしても、共感すると共に、彼の幸せを願うことができるようになるだろう。臨場感がなければ共感も生まれない。」

パンフレットよりリュック・ベッソン監督の言葉

他の作品との対比になってしまうが、先日別の映画を観ていて、まったく逆の感想を抱いたので、この引用は「ほんとそれそれ!」って思った。

そっちの映画は「こういうビジュアルを撮りたいシーン」が先行したご都合主義に見えて、実在感も臨場感も必然性も無いというか、「え、どう考えてもその場面でそんな行動を選択しなくない?」など、ストーリーよりも演出とか脚本が気になってしまって、作品に没入できず、すごく冷静になってしまった。(逆にストーリーとか設定とかキャラはすごく好きなのに、なんでこうなった???って感じ。)

でも本作の主人公のダグラスは、細かい仕草とかミステリアスなところとか、不遇な生い立ちがゆえにこのタイミングでこの人はどんな感情なんだろう?ってすごく気になってしまって、少しでも感情を感じ取ろうとすっごい没入して観てた。

観客はデッカー(拘置所の精神科医)の目を通してダグラスを見る。だから観客には、彼女もまた苦しんでること、そして彼女には厳格なだけではない人間らしさが備わっていることを感じさせる必要があった。

パンフレットよりベッソン=シラ(プロデューサー)の言葉

そう、言われてみれば、映画を観てる間はダグラス視点というよりは、デッカーがダグラスから話を聞いてその場面を想像してるっていう感じだったのかも。デッカー自身もトラブルを抱えていて人間味のある人物っていうのがあって、その立場からダグラスと対話してるっていうのが、「ダグラスの助けになりたい」って思いながら話を聞いてる感じがした。

これがただのキャラクター性の薄い精神科医の質問だったら、全然ちがった印象だったんだろうな。ここにも人物のリアリティへのこだわりを感じた。

ダグラス役ケイレブ・ランドリー・ジョーンズさんの演技がすごい

自分はダグラス役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズさんは本作が初見。
いやー演技がすごい!演技に詳しいわけではないけど、一挙手一投足全部すごいなって思った。拘置所の少ししか開かない窓の下でタバコを吸うシーン。あの醸し出す雰囲気からもう虜になった。

そして初めてのドラァグクイーンとしてのショー。もうあのシーンはずっとハラハラしてた。転んでしまうんじゃないか、無理すると骨髄液が漏れるとか言ってたし脚が悪化してしまうんじゃないか、そんなハラハラと一緒に、ゆらゆらと身体を左右に揺らしながら、上半身と表情でものすごい演技をしてるのがすっごいカッコよかった。

そして曲が終わり、大歓声のなか、なかなか閉まらない幕。舞台袖のお姉様たちをみて、目で訴えてて「もう限界!早く幕をおろして迎えに来て!」って叫んでるようだった。ギリギリで幕が閉じて迎えも間に合って、心底胸をなでおろした。今思い出しても、こんなハラハラするシーンなかなか出会えないなと思った。

おそらく元はこれかなっていうのをYouTubeで見つけた。

ドラァグクイーンになってからなのか、それとも元々そういう素養があったからなのか、それ以降は妖艶さが増した感じがして、「自分ではない誰かを演じることで、自分らしさをてにいれた」のかなって思った。アッカーマン(保険の調査員)とのやり取りも、相手を手玉にとるような言い回しがすごく似合ってた。ドラァグクイーン感というか、目配せの仕方が上品な女性感を出してると言うか。

そして犬たちとの意思疎通ができることに気づいて、更に生き生きとした感じになったなって思った。最後のマリリン・モンローの姿を楽しんでる時とかすごく楽しそうだったし。

ホーム・アローン的な戦闘シーン最高

あのマリリン・モンローの姿での戦闘シーン最高。そしてまさかの罠だらけだったDOGMANの基地。だれかも言ってたけどホーム・アローン的な戦闘シーンがすっごい良かった。

あのトラディショナルな罠。名前はわからないけど踏んだらガシャンとしまって脚を噛まれる金属の歯みたいなやつ。すっごい痛そう。落とし穴に誘導して1人落として、助けに来たもう一人を後ろからアタックして更に落とすっていうのも最高。
あとちっちゃい子がロッカーのところに行って、敵をおびき寄せてからダグラスが壁越しにショットガンを撃ち抜くっていう連携最高。漏電したケーブルを敵にぶつけるのは、あなた(犬)自身も危ないじゃん!逃げて!って思ったw

なにより、ダグラスが意を決して立ち上がって、頑張って歩いて戦いに行くっていうのがもうハラハラが止まらない。ショーの時と同じでいつ転ぶか分からないし、いつ骨髄液が(略)。あの姿でショットガン持って、決死の覚悟で戦うのを「美しいな」と惚れ惚れしてしまった。

思えばあのボスと対峙するシーン。ボスは引き金を引くけど弾丸はでなかった。これは想像だけど、ダグラスはもうあの時点で死を覚悟してたんじゃないかと。銃の残弾数なんておそらく分からなかっただろうし。だから最後ぐらい優雅に迎えてやろうとワイン片手に待ち構えたのかなと思った。でも結果弾丸はでなかった。そのあたりに「神の意志」みたいなものを感じたんじゃないかなと思ってみたり。

ワンちゃんたちがホントに名演技すぎる。そしてドッグトレーナーさんがすごい!

これもパンフに書いてあったことだが、動物を出演させる映画っていうのは、当たり前だけどドッグトレーナーの方がいて、しっかりした訓練を経てあの演技ができるようになっている。

映画を観てる最中は、本当にダグラスとワンちゃんたちは心を通わせることができて、目線一つで意思疎通ができているような感じがして、観ててすっごい気持ち良いと言うか、自分もそういうパートナーの犬がほしいな!って本気で思ったけど、パンフにある通り、そこには数ヶ月に及ぶ訓練があって、ドッグトレーナー自身が劇中の噛まれる役とかも代役として訓練してるっていうのを読んで、そこでもまた感動した。言葉が通じないのにあれだけのパフォーマンスができるのってほんとすごいなって思う。

音楽はやっぱりエリック・セラ。犬の鳴き声すら楽器。

エリック・セラ最高ですね。リュック・ベッソンといえばエリック・セラ。どのリュック・ベッソン作品のサントラもホント好きで何度も聞いてしまう。

本作を観てる間は気づかなかったけど、Apple Musicでサントラを聞いたら犬の鳴き声が。(パンフにも書いてあった。)あの不穏な雰囲気。世界観とマッチした音のサンプリング。ホント天才だと思う。

劇中で使われた楽曲がいろいろ素敵

パンフに挿入歌についての解説もあったので、曲だけリストアップしてみる。個人的にはゴッドファーザーのテーマのカバーがおしゃれだなーって思った。
あとエディット・ピアフさんのこと全然知らなかったんだけど、wikipediaみたらあの有名な「愛の讃歌」はもともとこの方の曲なんだね。勉強になった。

ジャンゴ・ラインハルト「ウルトラフォックス」
映画「ゴッドファーザー」のテーマのカヴァー、ヤオ・スーティン「スピーク・ソフトリー・ラブ」
ZZトップ「ラ・グランジェ」
ユーリズミックス「スウィート・ドリームス」
シェール「シュープ・シュープ・ソング」
エディット・ピアフ「群衆」
マイルス・デイヴィス「ソー・ホワット」
シャルル・トレネ「残されし恋には」
マレーネ・ディートリッヒ「リリー・マルレーン」
アバ「マネー、マネー、マネー」
マリリン・モンロー「アイ・ウォナ・ビー・ラヴド・バイ・ユー」
エディット・ピアフ「水に流して(ノン 私は悔いていない)」英語版「ノー・リグレット」
サティーン・ベッソン「Autumn Star」(リュック・ベッソンの娘さんだそう)

パンフレットのコラムより

まとめ。時間を置いてから、もう一度観たい。

分不相応な感情を持ってはいけなかった」っていうのが一番悲しいセリフだった。人を愛するって尊いもののはずなのに、自分のハンディキャップのせいで「分不相応」なんて思ってしまうのはやっぱ悲しい。

ラストシーンは人によってどんな解釈があるんだろうか。自分はあのまま天に召されてしまったかなって思った。

自分の存在を神に認めさせて、命を燃やし尽くしたって感じがした。そのために女装ではなくダグラスとしての正装をして、教会の前に立ちたかったのかなって。

パッピーエンドでは無いけれど、ありのままの自分を受け入れて、その上で強く生きるっていう意味では勇気づけられた作品でした。もう一度観たい。


余談

「規格外のダークヒーロー爆誕」っていう日本のポスターのキャッチコピーは誤解を生むと思う。もちろん「ヒーロー」っていう言葉自体の持つ意味としては間違ってないんだろうけど、今の映画界で「ダークヒーロー」って言葉はヴェノムとかジョーカーとかアメコミヒーロー的なものを連想させてしまうんじゃなかろうか。「爆誕」っていうのも、新しいヒーローシリーズが始まったのかな?って思ってもおかしくないというか。

もちろん「犬を操って悪と戦う」みたいな部分はダークヒーロー的とも言えるけど、この物語の本質はそこなんだろうか?っていうのは疑問。「レオン」の時は「凶暴な純愛」だったよな。個人的には、ダグラスの人生とか、狂気や悲しみや愛を表現したキャッチコピーのほうが合ってるのになって思った。


映画情報

原題:Dogman / DogMan
上映日:2024/03/08
上映時間:114分
製作国:フランス, アメリカ
配給:クロックワークス
ジャンル:ドラマ

関連情報

公式サイト
https://klockworx-v.com/dogman/

公式X(Twitter)
https://twitter.com/dogman_jp2023

Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/DOGMAN_ドッグマン

Apple Music「DOGMAN サウンドトラック」
https://music.apple.com/jp/album/dogman-original-motion-picture-soundtrack/1710394852

Filmarks
https://filmarks.com/movies/111442


もっとさくっと書くつもりだったのに、初めての投稿が長文になってしまった。思ってることを文章にまとめるって難しいですね。

追記 X(Twitter)でメイキングが投稿されてた

すごいなぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?