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映画「ミッシング」を観てきた感想。精神崩壊ギリギリの演技がすごい

石原さとみさんの演技がすげぇ!っていう前評判で話題の「ミッシング」を観てきた。もう度肝を抜かれた。この映画は必見だと思う。

そしてパンフレットがめちゃくちゃ豪華!本の半分はシナリオ決定稿が全文掲載。読み応えもあるし、監督と石原さとみさんの話もめちゃくちゃおもしろかった。

※以降ネタバレを含みますのでご注意ください。


真犯人はだれだ!みたいなミステリー・サスペンスではないけど、モヤモヤが残るわけでもない。

映画系YouTuberでの紹介でもされていたように、誘拐犯を見つける!みたいな話ではない。なんなら誘拐なのかどうかすら分からない。娘が行方不明になった母親と父親、そしてそれを取り巻く人達と社会問題の一部分を切り取ったような作品。

正直なにかの正解がでるわけではないものの、それぞれの人物に対して、観客としてもやもや感じる部分はほぼクリアにしてくれてるのが構成としてすごいなと思った。

母親の沙織里(石原さとみ)は作中はずーっと不機嫌か泣くか壊れてるかだが、ラストシーンで娘のマネをしてリップロールをする。なんとなくそこで"ちょっとふざける"だけの余裕がでたのかなって思えた。

父親の豊(青木崇高)はずっと冷静でいるように努めていて、暴走したり壊れそうになってる沙織里を支えているが、ビラ配りをしているときに同じく行方不明になっていた宇野さくらさんとその母親に遭遇し、「私達にもなにかお手伝いをさせてください。」という申し出を聞いて泣き崩れる。この泣き崩れるっていうのが、それまでずっとずっと我慢してきたんだなっていうのがわかる。沙織里はずっと夫があまり協力的でないように見えたり、なぜそんなに冷静なの?と詰め寄ったりしてたが、その泣き崩れてるのをみて、夫の気持ちを理解するっていうのが救いだなと思った。

沙織里の弟の圭吾(森優作)も、はじめは犯人なんじゃないかと疑われていたり、テレビでインタビューをみた不良に絡まれたり、沙織里からもかなり罵倒されたりもしてたけど、自分なりに責任を感じて、行方不明の美羽かもしれないと思った住宅を覗き込んだり、沙織里との車のなかで「美羽に会いたい・・・」と泣き出す描写を描くことで、圭吾犯人説は否定され、沙織里から美羽と圭吾が遊んでいた時の動画が送られてくることで、沙織里との仲も少しだけ回復するような感じになって、観てる側としては良かったねと思えた。

母としての強さと弱さが両方とも限界突破してる石原さとみさんの演技がすごい

自分はもともと邦画をあまり観ないし、2000年以降ぐらいからのテレビドラマもほとんど見てない。邦画もドラマも演技が仰々しくて、リアリティに欠けるなと思ったのが観なくなった理由だが、最近はそういう作品ばかりではないっていうのにようやく気づいて、邦画も積極的に観るようになってきた。

石原さとみさんは「シン・ゴジラ」でしかちゃんと観たことがない。そういう意味で言うとあの作品での石原さとみさんは前述の「仰々しい」演技で、正直好きじゃなかった。(俳優としてというか、あのキャラクターがっていう部分が大きいが)

でも今回はすごかった。「演技っぽさ」が無いわけではないが、すごく自然体に見えた。自然体な上で、ものすごい熱量の役を演じきっていたと感じた。

母親として、なんとかして大事な娘を探したい。0.001%でも可能性があるならなんでもやりたい。どんな苦労も厭わない。でも弱いから感情がまっ先に出てしまう。ずっと不機嫌だし、ずっと泣いてるし、すぐ頭に血が上って喧嘩腰になる。

誹謗中傷を受けたり、いたずら電話で娘が保護されたって騙されたり、精神的にぶっ壊れそうになりながらも、強さと弱さが限界突破して暴走状態になりながらもまた立ち上がる。母の強さの部分が、かろうじて精神が崩壊するのを抑えている。そんな感じに見えた。

一番衝撃的なシーンは、電話で「娘が保護された」と言われ、警察署にいったらそれがいたずら電話で嘘だったとわかったシーン。あぁ、ついに壊れてしまう・・・と思ったら、その瞬間「あ゛あ゛あ゛あ゛」と"低い声"で絶望の声を発しながら失禁してしまう。

あそこであの低い声がでてくるのは予想外。普通の演技だったら怒り狂うとか、高い声で泣き叫ぶとかを想像するけど、人の精神が崩壊寸前だとああいう声がでるのか!っていう部分がなんあ妙にリアルで怖くて切なかった。

誹謗中傷やいたずら電話などの迷惑行為に対する報復

夫の豊が「便所の書き込みと一緒なんだから見るなよ」というシーンがあるが、その反論として沙織里は「便所の書き込みは攻撃したり傷つけて気たりしない!」という。沙織里としては、もしかしたら有益な情報が書き込まれてるかもしれないという思いもあるから、掲示板をみるのはやめられないんだろう。結果として誹謗中傷を目にすることになる。

誹謗中傷をした人物を特定し裁判にを起こす描写があったのは良かった。なぜか世間一般に"あるある"なのが、加害者は守られ被害者は守られないっていう構造。そこに対して、今作ではちゃんと個人を特定して裁判を起こすっていうのを描くことで、ちょっとだけ救われた感じがした。

ただ、あのいたずら電話の犯人に対しても、なんらかの罰が下ってほしいなとは思った。あれはほんとに酷すぎる。あれも何かしらの犯罪行為として処罰してほしい。

余談だが、SNSの本人認証はなぜもっと進まないんだろうか。別に本名を表示しろっていうのではなく、裏側で身分の確認がされてるかどうかだけでいいのに。そうすれば認証してないアカウントはコメントを表示しないとかできるのに。完全匿名で無責任に誹謗中傷する人間を放置しているのは、SNSサービス提供者側の責任としてなんとかしてほしい。

「ありのままの事実を見せるのが報道の役割」っていう大義名分を振りかざしたエンターテイメント

作中の地方テレビ局の記者である砂田は、なんとか娘が見つかるようにとインタビューや調査を進める。砂田自身は「真実」を知りたいし、この家族にできるだけ協力したい。

砂田は知り得た情報を「事実」として放送することで、視聴者がどう解釈するのかを想定して見せるべきものと見せるべきでないものを選別しようとするが、上層部は「事実をありのまま見せるのが報道」という大義名分を振りかざして視聴率の取れそうな番組編成を強行する。その結果、弟の圭吾は街中で時代遅れな不良に絡まれるし仕事も追われることになる。

警察署で担当刑事の村岡と砂田の会話。村岡はそもそもの原因は報道だという。「お前たちが面白がって変な放送するから、こうやって頭のおかしいやつが来るんだろ」という村岡に「別に面白がってないですよ。事実を報道しているだけで」という砂田。でもこのあとの一言が本質的だなと思った

「その事実が面白いんだよ」

結局テレビ局側としては感動ポルノとして、娘のいなくなった家族の悲劇で視聴率が取れれば良くて、視聴者はネガティブな情報ばかり観たがる。

何かの本で読んだが、"人間は狩猟時代の名残で、生き残るためにネガティブな情報には敏感という本能がある"とのこと。だからその事実を「面白がっている」かどうかの自覚は無いかもしれないが、ネガティブな情報のほうが視聴者の興味をそそるのは理にかなってはいるんだと思う。

だからといって、その事実を放送したその先に、視聴者にどういう変化をもたらしたいのか?っていうところまでが報道の責任だと個人的には思う。

これまた余談だが、時間の無駄なので自分はニュースは見ない。必要最低限知らなければいけないことは、嫌でも耳に入るので、その時点で調べればいい。芸能人の不倫や政治家の汚職なんて、知ったところで自分の生活になんの影響もない。選挙の前に、政治家の功績を知れる番組だったら見てみたいものだが、そういう番組はあると聞いたことがない。きっと視聴率は取れないからだろう。

優しい人たちもいっぱいいた

作中は悲劇的な部分のほうがインパクトが強いので忘れそうだったが、優しい人たちもいっぱいいた。

  • 自治会でビラの配布を手伝ってくれるみなさん

  • ホテルの支配人と女性スタッフ。ビラの設置を快く引き受けてくれた

  • 印刷所のおじさん。お金ないけど急ぎでって頼んだら、追加で余分に刷ってくれた

  • 沙織里の同僚のみかん農園のマキさん。妊婦さんなのにビラ配り手伝ってくれた

  • 漁港のみなさん。いつも寄付金くれてた

  • 宇野さくらさんのお母さん。自分も手伝えることがあったらと申し出てくれた。

この映画を見て得るものがあったとすれば、困ってる人はほんとに精神的にも追い詰められているので、周りの人がサポートしてくれるとほんとに助かるっていうところ。もし自分もそういう状況を目の当たりにしたら、手助けできるような人間になりたい。そのためにも、まずは自分の生活を安定させ、多少の心のゆとりがある生活っていうのが大事だなと思った。


関連情報

公式サイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/missing/

Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ミッシング_(2024年の映画)

X(Twitter)
https://twitter.com/kokoromissing

Filmarks
https://filmarks.com/movies/109076


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