中身の話

大学時代、僕は卒業するまでの4年間、同じコンビニでアルバイトをしていた。

バンド活動や急な講義の変更とかそんな事にも融通をきかせてくれる、本当にありがたいバイト先だった。

僕の勤務は主に夜勤。

深夜のコンビニには、若者も多いが、色々と訳のある大人の方々も多い。

今日はそんな方々の中で1番印象に残っている、空き缶回収を生業としているおっちゃんの話をしたいと思う。

毎日、夜10時半、朝方4時過ぎに必ず店に来る。
夜に朝バナナともなかを1つ買う。朝方は栄養ドリンク。

次第に顔を合わす機会が多くなった僕とおっちゃんは会話をする事も多くなった。

本当に他愛もない話。

僕は、今度宮崎の実家に帰るんすよーとか、彼女と喧嘩したんすよーとか。

おっちゃんはアルミ缶は甘くみらんほうがええとか、今日はほんまスチール多かったわーとか、
きっとお互いにとって他愛もない話。

そんなある日、僕は当時付き合っていた彼女にファッションセンスをズタズタに言われ凹んでいた。その後、バイトに入り、朝方に来たおっちゃんに珍しく僕は愚痴をこぼした。

おっちゃんは、女の子はそんなもんや、と言い笑った。

そして、数日後の夜、いつものようにおっちゃんが来た。

おっちゃんはいつものように朝バナナともなかを持って来た。もなかを良く見ると、陳列の時に無理やり詰めたせいか、潰れて中のあんこが出ていた。
丁度、夜の商品配送の便で新しいもなかが来てたので、おっちゃんに取り替えます、と伝えた。

すると、

『かめへん、かめへん、いくら潰れとってもなぁ、中身が良けりゃそれでええんや。重要なのは外身やない、中身なんや』と言って僕の肩を叩いた。

そんなおっちゃんとの別れの日。

僕のアルバイト最終日。
おっちゃんは両手いっぱいに朝バナナの入ったビニール袋を持って会いに来てくれた。

『社会人は朝が命やで』

おっちゃん、ありがとう。

おっちゃんも、毎日朝早くから夜遅くまで頑張ってるんやから、無理すんなよ。

今度また、大阪行った時、おっちゃん訪ねてみよう。

酒でも飲みたいな。飲み明かしたいな。

でも、それでも飲んだ次の日の朝は朝バナナ飲むんだろうな。

だって、社会人は朝が命やからね、おっちゃん。

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