犬の話 子猫のちぃ
ちぃは生後間もない黒色の女の子の猫
さびれた神社の社の下で、お母さんと、6匹の兄弟と楽しく暮らしていました。 ちぃは兄弟の中で一番、ちっちゃかったのでちぃと呼ばれていました。
みんなで遊んでいても一匹だけできなかったり遅れたり、兄弟の中ではできない子、扱いでした。
それでも、お母さんは優しかったし、いじめられたりはしなかったので毎日楽しく暮らしていていつまでもこんな日々が続くと思っていました。
ところがある日、突然事件が起こります。
日ごろ誰も来ない、神社に突然、子供たちが数人やってきたのです。
そして社の下に隠れていた、ちぃたち子猫を見つけ捕まえようとしたのです。ちぃ達はお母さんに促されすぐに逃げ出そうとしました。 でも、一番ちっちゃくて、遅かったちぃは子供たちにつかまってしまいました。
子供たちはちぃを捕まえて、喜びました。 けしてちぃをいじめたりはしません、撫でたりさすったり一緒に遊ぼうとしたのでした。 でも、どこか遠くに連れていかれてしまったのでちぃは早くお母さんのところに帰りたいので爪を立てて必死で暴れました。
そのうち飽きたのか子供たちはちぃを残して去っていきました ちぃは知らない場所に一人ぼっちになってしまいました。
ちぃ一生懸命「みぃみぃ」とないてお母さんを探しました。 けれどお母さんはどこにもいません。 たくさんたくさん歩いて、ないて、探しました全然見つかりませんでした。
ちぃは疲れてしまいました。 泣きつかれたのか歩き疲れたのかもわかりませんが、もうなくことも歩くこともできませんでした。 仕方なく、たどり着いた大きな木の下で眠ることにしました。
日が昇ってきたころ、ちぃは目覚めました。 どうしようか迷いましたが、またお母さんを探すことにしました。
またたくさん歩きました。 そして田んぼのあぜ道に出た時のことです。 ちぃの頭上に黒い鳥たちが群れ始めました。 カラスです。
ちぃはお母さんにカラスを見かけたらすぐに逃げなさいと教わっていました。すぐにさらわれてしまうからです。 ちぃは走って逃げました。 でもすぐに見つかって襲われました。
逃げても逃げても鋭いくちばしでつつかれました いっぱいつつかれて体力を奪って、さらっていこうという魂胆です。 たくさん血も出ました。
ちぃはまだ小さい爪を使って必死で抵抗しました。 でもだんだん、力がなくなってついにカラスに捕まれてしまいました。
その瞬間です
「ぐるるるる、ぐおぉぉぉん」
と唸り声をあげた黒い大きな犬が飛び込んできて
バシッ!!
とカラスを殴ったのです。 思わずカラスはちぃを離しました。
ちぃが上を見上げると、黒い大きな犬が仁王立ちしていました。 「助かったのかな…」と思いながらちぃは意識を失いました。
目覚めたとき、ちぃは小さなゲージの中にいました。 どうやら命は助かったようです。でも、体中に白い布がまかれ、左目は何も見えなくなっていました。
また、見知らぬところへ連れてこられて、ちぃは悲しくなりました。 おなかもペコペコです。
「みぃみぃ…」
ちぃは少しないてみました。 すると女の人が来てちぃを抱きかかえミルクを飲ませてくれました。 おなかのすいていたちぃはむせるくらい慌てて飲みました。 お腹がいっぱいになると眠くなりました。幸いここはカラスには襲われないようです。安心して眠ることにしました。
しばらくするとゲージの扉があきました。
そしてそこから黒い犬が長い舌を出して顔をのぞかせました。
そう、あの黒い犬です。
犬はちぃを見ると長い舌を伸ばしてベロンとなめてきました。 そしてそのあと、男の人が顔をのぞかせました。
「おお元気になったねぇ」
そんなことを言っていました。 そして再び扉は閉められました。 それから数日間、黒い犬と男の人は毎日やってきました。
そしてある日、ちぃはゲージから出され、黒い犬と男の人に連れていかれることになりました。 黒い大きな犬は「はな」さんといいました。 はなさんが朝のお散歩中に、ちぃがカラスに襲われているのを発見し助けてくれたようです。そしてそのあと瀕死だったちぃを男の人が病院に連れて行ってくれて助けてくれたのでした。
おうちについてからは、いつもはなさんが一緒でした。 ご飯を食べるときもおやつを食べるときも、寝るときずーっとはなさんが一緒でした。 やさしくて大きいはなさんが一緒だったのでちぃはいつも安心して暮らすことができました。
毎日、朝起きてはなさんとお散歩に出かけ、おうち人が仕事へ行くのを見送りそのあと、縁側ではなさんとお昼寝。 おうちの人が帰ってきたら玄関でお迎え。そのあと、はなさんとお散歩に行って寝る。
平凡ですが楽しい日々でした。
ですが、そんな楽しい日々も終わりが来ます。
ある日、おうちに女の子とそのお母さんが来ました。 そしてちぃはその親子に連れていかれました。
ちぃは「みぃみぃ」必死でないて抵抗し、はなさんに助けを求めました。
でも、はなさんは悲しそうな顔をしてお座りしているだけでした。 そして最後にちぃの顔をペロンとなめてくれました。
ちぃはとても悲しくなりました。
もう、はなさんとの楽しい暮らしは過ごせないのだと。
しばらくして、女の子のおうちにつきました。 どうやらちぃはこの女の子たちと一緒に暮らすようです。 新しい家族と暮らすのは不安でしかありませんでした。
でも、女の子もそのお母さんもお父さんも優しくしてくれました。 そしてちぃに新しい名前を「はな」とつけてくれました。
ちぃはうれしくなりました。あのはなさんと一緒の名前です いつもはなさんと一緒の気持ちでいられました。
ちぃは新しい暮らしにも慣れましたが、表へ出るのだけは我慢していました。またカラスに襲われるのが怖かったからです。 はなさんと一緒の時ははなさんが守ってくれましたが、はなさんはもういません。自分の身は自分で守らねばなりません。 そしてそんな自信もなかったので、いつもおうちで過ごしていました。
ところがある日、おうちの中を探検していると、勝手口のドアが少しあいているのを見つけました。 ちぃはもう「みぃみぃ」ではなく「にゃあにゃあ」となける大きな猫になっていたので、少し外の世界を見てみたくなりました。
勝手口から、外に出るとすぐにブロック塀がありました。 ブロック塀にはところどころに穴が開いていました。 その穴をちぃはのぞいてみました。
すると、隣のおうちがみえました。
その隣のおうちの縁側には、黒い大きな犬がいました。
はなさんでした。
ちぃははなさんのお隣にもらわれてきたのでした。 ちぃは嬉しくなって、はなさんのところへ行きました。 はなさんも喜んで喜びのダンスを踊ってくれました。 それから長い間一緒に遊びました。
夕方、女の子が「はな~、どこにったの~」という声が聞こえてくるまで。
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