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ヒカルの碁の囲碁ルールブックを読んだ翌日に大会出て、幼稚園児と殴り合った話

「ヒカルの碁」旋風

僕が中学生の頃、「ヒカルの碁」の影響で空前の囲碁ブームが巻き起こっていました。

僕もヒカ碁旋風に煽られて、なんとなく囲碁を始めたいなと思っていました。
囲碁に興味がある雰囲気を醸していたら、友人の半田くん(仮名)に声をかけられました。

「今から碁会所に行くけど、お前も来ない?」



連れて行かれたのは駅前の雑居ビル5Fにある、薄暗くてタバコ臭い碁会所です。半田くんはそこで白髪まじりのおじさんたちと対局し、次々と打ち負かしていました。みんな一斉に碁を打っていて、部屋中にパチン、パチンと碁を打つ音が響いていました。
中学生囲碁ワナビーの僕にはストイックで、奥ゆかしい大人の世界に踏み込めたような気がして、すっかり碁会所の虜になりました。

帰り道、碁会所の空間に興奮し、ぜったいに囲碁を始めたいことを半田くんに伝えました。囲碁のルールは簡単だからすぐ始められる、と言ってくれました。
また彼は、近々開かれる地域最大規模の囲碁大会に出場する予定であること、囲碁大会で勝ち進めば昇級できることなどを教えてくれました。昇級!ヒカルの碁の世界の響きにうっとりしました。半田くんが進藤ヒカルに見えました。同級生が先生より年上のおじさんを倒すなんて。肩の後ろに佐為も見えたような気がしました。

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ヒカルの碁 囲碁スターターBOX

数日後、本屋で衝撃的な出会いをしました。

目を見張りました。
帯には「これでキミも必ず囲碁が打てる!」と書いてあったからです。


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ヒカルの碁 囲碁スターターBOX」です。
囲碁のルール説明書や、可愛いキャラの顔がプリントされた碁石や、それらを並べられるようイラスト付き9路板も付録でついていました。

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3000円ほどして、当時の僕にとっては大金でしたが(別に、今も大金です)飛びつくように即買いしました。ちなみにこの本はバカ売れして品切れ続出だったため、店頭で見つけられたのは幸運でした。

家に帰って、ご飯も満足に食べず、夢中になって「すぐ分かってすぐ打てる囲碁究極ガイドブック」を読み耽りました。
確かにルールは簡単で、オセロに毛が生えたみたいなもんか、と理解しました。ガイドブックは薄い冊子だったため、1時間もせずに読み終わりました。すぐに囲碁の対戦をしたくなりましたが、我が家は囲碁ができる人は一人もいませんでした。

いてもたってもいられず半田くんにパソコンのチャットで連絡を取りました。するとネット囲碁で対戦ができるというのです。さっそく半田くんとネット上で対戦しましたが、当然歯が立ちませんでした。
当時の半田くんは中学生にして段位に手が届くかも、と言われていたのです。
同じレベルの相手と戦いたいな、と思いました。いや。勝てそうなやつと囲碁をやりたい。彼に相談すると思いもよらぬ提案を受けました。

「明日、囲碁の大会があるよ。そこだと段級位順に対戦できるから、同じレベル同士で戦えるはずだよ。出てみない?」

大会出場のお誘い。ルールを聞き知ったばかりなので躊躇しました。しかし進藤ヒカルは囲碁覚え立てでライバルの塔矢アキラと戦っていたし。同じレベルの相手なら、初心者に違いないから勝てるかもしれない。何よりスターターBOXには「これでキミも必ず囲碁が打てる!!」と書いてあります。そうだ、僕はもう、囲碁が打てるのです。僕は出場を決意しました。
こうしてヒカ碁の囲碁ガイドブックを読んだ翌日に、地域最大規模の大会に出場することになったのです

運命の段級位決め

翌日。地区最大の囲碁大会に向かいました。白髪交じりのおじさんでごった返していましたが、なかには小学生くらいの子も多く、ヒカ碁ブームの威力を肌で感じました。

半田くんもいました。ついて行こうと思いましたが、初参戦なら段級位を決めなくてはならないと言われました。

段級位。初段、二段、三段、から八段まである、藤井聡太さんが爆速で駆け上がったあれです。

段位が、初段〜八段まで。数字が上がるほど強い。

級位が、5級が平均で、数字が下がるほど強い
(英検、漢検みたいな)。1級の人が昇級すると初段になれるとのことでした。

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半田くんは確か2級所持者で、アマチュア中学生にしてはかなり強い人でした。

大会参加前に審査があって、そこで級位が振り分けられます。半田くんとは別れて、段級位の審査ブースに向かいました。

そこでは係員に囲碁歴を尋ねられました。
僕は正直に「昨日始めました」と伝えました。

するとスタッフ達が明らかに困惑の表情を見せます。
大会参戦者の中で、昨日始めた人はいなかったようです。しばらくした後、係員が口を開きました。

係員「じゃあ、キミは28級です!」


「に、にじゅう、はち級?」聞いたことのない級位でした。昨日囲碁を始めた人は28級なの…??半田くんが2級だから、せめて7,8級くらいだと思っていました。

係員「まあ、試合に勝てば級はすぐ上がるから。飛び級で上がるもんだから、今だけだよ」

僕は28級とラミネートされたカードを首から下げました。周りの人にもチラチラ見られています。舐められたもんだぜ。すぐ駆け上がってやる。。


辛かった梅沢由香里さんの講演会

大会スタートまで、まだ時間があります。
この大会の目玉イベントとして、ヒカルの碁の監修をされている梅沢由香里四段の講演会が用意されていました。
せっかくなので単身で参加しました。どでかい会場に無数の椅子があったので、前の方に座ろうとすると、係の人に呼び止められました。なんでも級位順に座る位置が決められているそうです。

僕は28級の席に座らされました。
見渡す限り、小学生低学年から幼稚園児しかいませんでした。
彼らも彼らで、突然中学三年の大男(当時から大きくて、老け顔で大人みたいだった)が近くに座ったのでたじろいでいました。

講演会の内容は全く覚えていません。
唯一覚えているのは。おじさんが混ざってることに反感をおぼえたのだろう、生意気盛りの小学生男児たちが、一斉に僕に向かって中指を立ててきたことです。何故こんな酷いことをするのか。めちゃくちゃ嫌でした。でも怒ると大人気なさすぎますので無視をしまして。延々と中指を立てられ続けました。
一回だけ目に入るぐらい近い位置で中指を立てられたので、「オラッ!」と短く吠えて威嚇しました。これが完全に逆効果で、威嚇し慣れてないものだから、声が裏返ってしまいさらなるイタズラを招いてしまいました。
「見てろよ、囲碁で叩き潰してやる」と何のプライドか分かりませんが板上での倍返しを目論んでいました。

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トラウマのリーグ戦

28級位戦が始まりました。僕を入れた5人で、リーグ戦です。
28級は僕以外は全員幼稚園児でした。

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ベジータの気持ちが痛いほど分かりました。舐めてくれやがって。
昨日囲碁を始めたやつと最近物心ついたやつは同等の囲碁力とみなされたのでしょう。まあいい、この子らには悪いが、叩きのめしてすぐ昇級しよう。勢いはこちらにある。そんなこんなで28級位戦が始まりました。
リーグ戦を行った結果、

 


 


  



全戦全敗しました…!
園児相手に恥辱の4連敗を喫しました…!


 



 

幼稚園児たちに、板上でボコボコに殴られまして、手も足も出ませんでした。


子どもとは怖いもので、思ったことを正直に言います。


園児A「きみ、よわいね

園児B「え、なんでそこ?まけちゃうよ?

園児C「そこは置けないよ。ルールしらないの?


なかばヤケクソになって、劇中でヒカルがやった三連星という技(プロでも中々やらない戦術)を見よう見真似でやりましたが、園児に「は?」という顔をされて、すぐ崩されてしまいました。


園児に向かって頭を下げる「参りました」は限界まで屈辱でした。


一番嫌だったのは、僕への勝利が人生初勝利だった子がいたみたいで。

園児D「ママ!ママ!ぼく、ぼく初めて勝てたよー!」

ママ「まあ〜!!○○ちゃん、よかったねー!!」


という会話がぼくの横で繰り広げられていました。

そのあと喜んでるママと目が合い、ハニカミ会釈をかましたら引きつった顔をされたのを覚えています。

彼の人生の中で、初勝利がおじさん(見た目)という、華々しい囲碁歴がスタートしたのかもしれません。


結局僕はこれらのことがトラウマで、囲碁を辞めてしまいました。一回でいいから誰かに勝ってみたかったです。佐為の力を、借りてでもいいから。



おわり。





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P.S.
佐為はかわいいね



 

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